牛乳を搾ることになるのは誰?

Dec 02, 2024

酪農産業と政治

コメント要約

  • 先週は、トランプ氏が輸入品に対する25%の関税を発表したことを受けて、メキシコ・ペソやカナダ・ドルには下落圧力がかかりました。
  • フランスでは、ルペン氏がバルニエ政権に対する不信任への賛成をちらつかせる中、政治的緊張が高まりました。
  • ドイツにおける経済状況は引き続き低迷しており、一部では、欧州が抱える問題の本質は構造的であり、改革のためのアジェンダが必要であるとの信念があるようです。
  • トランプ氏は主要閣僚の候補者指名をほぼ終えた格好で、市場の注目は再び経済指標や主要中央銀行の会合へと移るとみています。

先週の金融市場では、トランプ氏が次期政権の財務長官としてスコット・ベッセント氏を指名したことを市場参加者が好感する中、感謝祭(サンクスギビング)の祝日に掛けて米国債利回りが低下しました。市場のコンセンサスとして、トランプ氏については吠え声(bark)の方が、かみつき(bite)よりもひどい(つまり、口ほどの行動ではない)との見方が広がっているようで、同氏の発言を額面通りに受け取らなくても良いとの認識が広がっているようです。

その意味で、先週同氏がメキシコ及びカナダからの輸入品に対する25%の関税を発表したことに関しては、あくまでも交渉手段としての発言であり、実現はしないとの見方が大勢であるようです。とは言いながらも、この発表はメキシコ・ペソやカナダ・ドルにとっては下落圧力となり、最終的な目的に関係なく、トランプ氏がつぶやきによって市場価格に影響を及ぼす力を持っていることが浮き彫りになりました。

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は来年再交渉の期限を迎えることとなりますが、トランプ氏はこれを、大統領令を通じて破棄することが出来、恐らくそうするとみています。実際のところ、不法移民を減らすためにはメキシコからの支援が必要となることから、トランプ氏の視線は米国の北ではなく南の国境付近にあるとみられます。

しかし一方で、カナダのトルドー首相や同氏のアジェンダに対する個人的な拒否反応から、カナダに対しても圧力を掛けているとみられます。その点において、カナダに対するトランプ氏の圧力は、来年のカナダ総選挙において、野党であるポワリエーブル氏率いるカナダ保守党に恩恵をもたらすことを狙ったものであるかもしれません。この点については、来年の総選挙によって、カナダの新政権はこれまでよりもトランプ氏の考えや世界観にずっと近くなる可能性があるでしょう。

大西洋を渡った欧州では、フランスでも同様に政治的な熱の高まりが見られました。フランスの予算案協議を巡って、ルペン氏がバルニエ政権に対する不信任への賛成をちらつかせたためです。フランスの財政赤字は今年度GDP比で6%を超えるとみられており、EUの過剰赤字手続き(EDP)の対象となっていることからも、この先数年間で財政赤字を削減する必要が制度として生じています。

しかし、バルニエ政権の予算案は不人気で、ルペン氏はこのレームダック化した政権を拒否することが政治的に有利であるとみているようです。新たな総選挙は今年7月から12ヶ月間は実施出来ないことを踏まえ、これまでは、ルペン氏が来年の夏までバルニエ政権の足元をすくうことはないと予想してきました。しかしルペン氏はポピュリストであり、有権者の声に鈍感な政権を支えているように見られたくないようです。さらにルペン氏は、一部のエスタブリッシュメント(政府機関)がルペン氏による政権奪取や2027年の大統領選出馬へのハードルを上げようとしていることに苛立ち、しびれを切らせている可能性があります。

最終的には、ルペン氏を阻止するという戦略は同氏の人気をかえって押し上げるとみており、直近の米大統領選でも、同じようなやり方が結局のところ、トランプ氏に対する支持を広げることになったのを思い起こす人もいるでしょう。

フランスの10年債利回りは足元でギリシャと同水準となっており、もはや今日の新しい「欧州周辺国」の定義に含まれる国はイタリアとフランスのみであり、スペインやアイルランド、ポルトガルはすでに「セミコア国」としての立ち位置を確立していることを驚きとともに受け止めています。

フランスについては今後の軌道に過度に楽観的となることは難しく、日本などの海外投資家がフランスに対する大きなエクスポージャーを有していることを踏まえれば、この先さらに政治的環境が悪化した場合、フランス国債がさらなる売り圧力に晒されるリスクがあるとみています。最終的には、スプレッドの動きはそこまで大きなものとならないとの予想を続けています。ルペン氏が早期に権力を手にする可能性は低いと見ているからです。

しかし、フランスの信用力は構造的に悪化の一途を辿っており、その道筋に変化の兆しは見られません。フランス国民は生活水準やフランス様式の生活を享受出来ていますが、その対価を支払うことを未だ認識しきれていないとみられます。最終的には、市場のストレスこそがその見方を変えるきっかけとなるでしょう。ただし今のところは、フランス国債のドイツ国債に対するスプレッドは100bps近辺を上限に留まるとみています。

ドイツにおける経済状況は引き続き低迷しています。ただし先週は、欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル理事が、より積極的な利下げ観測を押し戻す発言が見られました。一部では、欧州が抱える問題の本質は構造的であり、改革のためのアジェンダが必要であるとの信念があるようです。

そのような視点からすれば、この先政策金利を2%程度の中立金利まで引き下げる余地はあるかも知れませんが、もしインフレ率がさらに低下しなければ、これを越えた金融緩和は問題があるでしょう。直感としては、マリオ・ドラギ氏の計画に向けて、ずっと巨額なEUの財政パッケージへの気運が高まるかもしれないと考えています。

しかし、来年2月の総選挙を前にドイツがこれを受け入れるとは思われず、さらにその先も、CDU(キリスト教民主同盟)が国家を超えたレベルでこれを推し進め、財政統合や単一市場に向けた動きを加速させることとなるのか、もしくはドイツ政府が、欧州全土に緩慢財政が広がることを警戒し、自国の歳出に対するコントロールを維持したいと考えるかどうかは依然不透明です。

ただしこれらのトレンドは、全般的に欧州イールドカーブのスティープ化を促すとみており、現状の米国市場に対する見方と共通します。しかし、現状の欧州における進展をふまえれば、金利やソブリン債よりも、通貨においてより魅力的な投資機会が存在していると考えています。ユーロは下落基調にあり、この先も、欧州経済が出遅れ、域内での政治的リスクの高まりとともに、関税のリスクも予想される中で、ユーロの下落基調はまだ続く可能性があるとみています。

先週、トランプ氏は、中国やメキシコ、カナダに対する発言をした際に、EUや特定の欧州の国については特段言及していませんでしたが、この先もその状態が続くかどうかはわかりません。こうした状況の中で、ユーロに関しては対米ドルで年末までにパリティ近辺まで下落すると予想しており、さらに来年は、円に対してより大幅に下落する余地があるとみています。欧州の政策金利が低下する一方、日本の金利の上昇が予想される中では、尚更です。

欧州のその他の地域に目を向けると、先週はルーマニアで実施された大統領選の第一回投票で、国家主義的かつ親ロシア派とされる候補者が得票数でトップに立ったことが市場にサプライズをもたらしました。今回の結果が警告となり、週末に予定されている議会選ではEU寄りの政党にとって追い風となるかも知れません。有権者はすでに現政権に対する不満を主張してきました。

多くの点から、今年世界中で実施されたほぼ全ての選挙において、政権与党は票を失ったと言えます。有権者は引き続き物価上昇や購買力の低下に怒りをあらわにしています。賃金が上がっている地域でも、それは労働者自らの勤勉さや能力によって得られた成果であると認識する一方、物価の上昇に関してはむしろ、現政権を非難すべきであるとの考えがあるようです。とは言いながらも、ルーマニアに関しては、EU寄りの姿勢を維持することを期待しており、その意味で、ルーマニア資産がアンダーパフォームする局面はポジションを積み増す好機になり得るとみています。

今後の見通し

12月を迎えようとする中、トランプ氏は主要閣僚の候補者指名をほぼ終えた格好で、市場の注目は再び経済指標や主要中央銀行の会合へと移るとみています。

米国では、雇用統計やインフレ関連指標の結果が、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において3会合連続の利下げが決定されるかどうかを左右することになるでしょう。多くの点から、現時点においてその先のさらなる利下げの必要性は懐疑的にみており、米連邦準備制度理事会(FRB)のドットチャートについては明らかに上方修正されることになるとみています。

パウエルFRB議長は、1月もしくは12月に25bpsの追加利下げをあと1回実施し、その後一定期間、政策を据え置くことを示唆すると予想してきました。その時点で、FRBは合計100bpsの利下げを実施したこととなり、1月以降の政策据え置きは、パウエル氏ら政策当局者に、次期政権による政策及びそれが経済に与える影響を精査する時間を与えることになるとみています。

その後は、来年後半に再び利下げが開始される可能性がありますが、成長がより大幅に減速するか、インフレの下方トレンドが加速するかの、いずれかの場合のみであるとみています。それとは逆に、仮に成長が底堅さを維持し、インフレの上方リスクが再び浮上することで、個人消費支出(PCE)コア価格指数が3.5%を上回り、上昇基調にあると見られた場合には、FRBが利上げを強いられる可能性があるとみています。

とは言いながらも、現時点では、前者の利下げシナリオの方が、後者の利上げシナリオよりも可能性が高いとみており、その意味で米短期債利回りは4.25%から4.50%近辺のフェアな水準にあるとみています。仮に明確に弱い指標などがない中で米2年債利回りが4.0%に低下すれば、再び短期金利のショート・ポジションを構築する好機となる可能性があるとみています。

ユーロ圏では、ECBによる25bpsの利下げが、米国と比べてかなり予測可能なイベントとなっています。イングランド銀行(英中央銀行、BoE)に関しては政策据え置きが予想されていますが、日本での会合はより注目を集める可能性があり、現時点では植田総裁が12月の会合で25bpsの利上げを発表し、政策金利を0.50%に引き上げると予想しています。前回の日銀の利上げは、キャリー取引の解消も相まって、広範な市場における混乱とミスプライスをもたらしました。

しかし、そのようなキャリー取引関連のポジションは、足元でかなり縮小されています。さらに、金利先物市場においては、12月の利上げが約50%の確率で織り込まれています。植田総裁は、政策サプライズを再びもたらさないよう極めて慎重にその意図をリークさせていくとみており、その意味で、(会合前の)ブラックアウト期間を前に日銀からの発言を非常に慎重に精査する方針です。仮に12月に政策変更があるようであれば、この先数週間で何らかのシグナルが発せられると予想しています。

それ以外では、この先のトランプ政策によって想定される影響を考えたとき、とりわけ米国の酪農産業に携わる移民の減少に伴う影響を示唆する逸話が印象的でした。業界関連のデータでは、酪農に携わる労働者の51%が移民となっていますが、朝4時にスタートする過酷な10時間シフトを行っている、この多くの労働者が、書類上は記録されていない可能性があるとのことです。

結果として、不法移民を一斉に検挙する動きがあれば、これらの労働者が即座に姿を消し、解消することが難しい労働力不足が発生する可能性があるとみています。端的に言えば、アメリカの若者たちの間で、このような過酷な仕事を率先して引き受けたい人はほとんどいないでしょう。その意味で、移民取り締まりは、その脅威のみであっても米国の基幹産業に影響をもたらすと言え、物価上昇やサプライチェーンの混乱につながり兼ねないと言えるでしょう。

これは瑣末な例かもしれませんが、政策行動がいかに事前には想定しづらい、予期せぬ結果につながり兼ねないか、ということを浮き彫りにしていると言えそうです。実のところ、トランプ氏が取り戻そうとしている偉大なるアメリカは、「乳と蜜の流れる約束された土地」ではないのかもしれません。

本資料はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド(以下、当社)が情報の提供のみを目的として作成したものであり、特定の投資商品の取引や資産運用サービスの提供の勧誘又は推奨を目的とするものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。本資料は信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、当社がその正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、その誤謬についての責任を負うものではありません。本資料に記載された内容は本資料作成時点のものであり、今後予告なく変更される可能性があります。また、過去の実績は将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。なお、当社の書面による事前の許可なく、本資料の全部又は一部を複製、転用、配布することはご遠慮ください。当社との金融商品取引契約の締結にあたっては、下記の投資リスク及びご負担いただく手数料等について契約締結前交付書面等を十分にお読みいただきご確認の上、お客様ご自身でご判断ください。

 

投資リスク
当社との投資一任契約に基づく運用においては、原則、外国籍投資信託を通じて、主に海外の公社債、株式、通貨等の値動きのある資産に投資しますので、基準価額が変動します。従って、契約資産は保証されるものではなく、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は全てお客様に帰属します。主なリスクとして、価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスク、カントリーリスク等があります。また、デリバティブ取引等が用いられる場合、デリバティブ取引等の額が委託保証金等の額を上回る元本超過損が生じることがあります。なお、投資リスクは上記に限定されるものではありません。

 

手数料等 
当社の提供する投資一任業に関してご負担いただく主な手数料や費用等は以下の通りです。手数料・費用等は契約内容や運用状況等により変動しますので、下記料率を上回る、又は下回る場合があります。最終的な料率や計算方法等は、お客様との個別協議により別途定めることになります。

 

Fee table

 

なお、上記には、投資一任契約に係る投資顧問報酬、外国籍投資信託に対する運用報酬が含まれます。この他、管理報酬その他信託事務に関する費用等が投資先外国籍投資信託において発生しますが、契約内容や運用状況等により変動しますので、その料率ならびに上限を表示することができません。