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コメント要約
先週は、米国の選挙直後の市場ボラティリティが落ち着き始めたような印象を受けました。全般的なことを言えば、米国債利回りや米国株式市場の水準は、投票日直前の水準と概ね同水準であることは興味深く、それ以前の1ヶ月間でトランプ氏勝利の可能性が織り込まれていく過程において、市場の動きはより大きかったと言えるでしょう。
さらに、多くの投資家が接戦を予想し、明確な結果が出ない可能性もあることを想定していたことから、市場が自ら選挙戦を盛り上げ、結果として最終的に投開票が終われば間違いなくボラティリティが低下する状態を作り上げていたようにも思えます。
米国では感謝祭の祝日が控え、年末ムードが漂い始める中、金融市場における変動も年末に掛けて落ち着くと予想することは自然かもしれません。実際に、先週ロシア関連の恐ろしい報道があったものの、金融市場に与えた影響は限定的でした。
しかし、現時点において、そのような穏やかな見通しを持つことは慢心とも言えると考えています。確かに、トランプ氏による新たな政権における主要閣僚指名は引き続き「非伝統的」であり、単なる変化のみならず、物事のやり方を大きく転換する政策アジェンダを予想させます。
ワシントンDCが来年の初めから通常運転になるとは想像しづらく、その過程において複数の卵が割れることも予想される中、この先数ヶ月間では政策及び政治面でボラティリティが高まる局面が幾度も訪れるとみられ、金融市場においては資産価格の乱高下につながる可能性も十分にあるでしょう。
したがって、トランプ氏勝利を予想して「トランプ・トレード」に備えたポジションを構築していましたが、実際の選挙結果を受けた市場動向を踏まえ、多くの資産におけるリスクを削減することを選好しています。それにより、この先ボラティリティが高まり、資産価格にミスプライスが発生した際に、リスクを積み増すことが可能となる姿勢を取ることが賢明であると判断しているためです。
米国債利回りの先行きの方向については、足元で概ね中立的な見方をしています。ただし、2年/30年ゾーンにおける、イールドカーブのスティープ化については強い確信を維持しています。端的に言えば、イールドカーブがさらに大きくスティープ化しない限り、米財政政策の枠組みは変化しないとみています。
イールドカーブがスティープ化すれば、減税がより直接的に資産価格及び住宅市場に重荷となる可能性があり、長期金利を低下させ、建設活動の停止を回避するために財政政策の変化を促す可能性があると言えるでしょう。
ただしそのような結果はまだ当面先になるとみられ、依然として預金金利と30年債利回りが逆イールドの状態にあることは、政策当局に対して実質的に財政浪費への青信号を与えているにも等しいと言えるでしょう。そんな中、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は興味深い会合になるとみています。
米経済指標は好調さを維持しており、現時点ではおそらく12月もしくは来年1月に、米連邦準備制度理事会(FRB)は今回のミニ・サイクルにおける最後の利下げを実施し、その後一定程度は据え置きを選択することを示唆するとみています。そのような姿勢は、好都合にもパウエル氏らが次の行動を起こす前に、トランプ新政権の行動を見極める時間的猶予を与えることになるでしょう。
一方で、米国経済が減速し、リセッション・リスクが再燃した場合には大幅な追加利下げの可能性もあるでしょう。しかし、インフレ・リスクによって、来年の今頃には米連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げを実施する可能性も同様にあるとみていますが、この場合に想定される利上げの幅は、(景気減速の場合の)利下げの大きさほどにはならないと見ています。
とは言いながらも、FRBによる利上げに懐疑的な人は、トランプ氏が掲げる移民や通商、財政政策が、FRBのこれまでの予想を上回るインフレ率の上昇トレンドにつながった場合、FRBのインフレに対する耐性がどの程度なのかを問うても良いかもしれません。
そのような視点から見れば、ここ数ヶ月間は個人消費支出(PCE)コア価格指数が前年比2.7%近辺で落ち着き始めた傾向が見て取れます。この先、同指標が3.5%近くまで再び上昇すれば、FRBはこれを看過出来ないであろうとみています。そのような水準が、FOMCにとって再び利上げを開始せざるを得ない、痛みの限界点であり、さもなくば自らのマンデートに関して職務怠慢と非難される可能性があるとみています。
トランプ氏が(前回の任期中同様に)FRBの行動に関して口を挟むことは間違いないとみられますが、FRBの政策に直接介入することは望まないであろうと考えています。パウエル氏は任期満了を迎える2026年に退任するとみられますが、FRBの独立性が脅かされることは想定しづらいとみています。仮にそうなれば、金融市場における大幅なリスクオフにつながり、トランプ氏自身がその非難の的となる可能性があるためです。
さらに今後について、経済に関する良いニュースは何であれ、「史上最も偉大な大統領」としての自身の手柄とする一方、落胆を誘うような指標は全てFRBの無能さの結果と大いに非難するでしょうから、パウエル議長という選択肢を持っていることは、トランプ氏には丁度良いように思います。
先週は日本で政策担当者と面談し、久しぶりに米国政治の喧騒から距離を置く良い機会となりました。当局者との議論を通じて得られた結論は、日本経済と人口動態トレンドについての分析からは、日本の高齢化社会が2010年代に言われたようなデフレ圧力になるのではなく、インフレ圧力になるということでした。
労働供給が減少し、労働者に対して競合が起きることで賃金が上昇するからです。過去10年程度は、女性の労働参加率の上昇や働くシニア層の増加によって、進展していた労働力不足が覆い隠されてきたとみています。
しかし、労働参加率は75歳以上で急速に低下するとされており、日本における女性の労働参加率は既にG7の中でもトップ水準であることを踏まえれば、この先労働力不足を回避することは困難になるとみています。
2025年1-3月期に予定されている春闘では、5%を超える賃上げが発表されると予想しており、そのような見方は多くの政策担当者や国内投資家の間でも同様のようです。
賃金上昇は、持続的に2%もしくは2%を超えるインフレ率につながるとみています。その場合、日本が金融政策正常化の道を歩むことに異論の余地はほとんどないでしょう。来年末の時点で、政策金利が1.0%に達すると予想しており、来月もしくは来年1月の会合で政策金利は0.5%に引き上げられるとみています。
興味深いことに、日銀はインフレ率が2%近辺で安定した場合、中立金利が1.0%から2.5%近辺にあると予想しているようです。これまでの当局者との面談時と比較すると、中立金利の水準は上方修正されており、その最大値では実質中立金利がプラス圏にあることには驚きました。
また、東京での面談からの印象では、来年に予め決めたスケジュールで日銀が国債買入を減額する中で、イールドカーブ・コントロール(YCC)が撤廃され、イールドカーブの形状が正常化に向かう中で、10年国債利回りも上昇する可能性があるということです。日本の10年国債利回りは、とりわけ30年債利回りとの比較において人為的に割高となっており、これは8年に亘るYCCの名残であるとみています。したがって、イールドカーブ上の10年/30年ゾーンに関してはフラット化を予想しており、この先数カ月でイールドカーブのスティープ化を予想している米欧とは大きく異なる状況です。
YCCの撤廃はこれまでのところ比較的慎重に進められています。同政策は以前「ホテル・カリフォルニア政策」とも言われました。つまり、チェックインは容易でありながら、チェックアウトは極めて難しく不可能に近いということです。従って、これまでのところスムーズにYCCの撤退を進めてきたことに日銀は非常に満足していると言えるでしょう。
しかし明らかに、8月の日銀の利上げに対する市場の反応は、スムーズとは言えないものでした。この時の市場では一定程度の恐怖が現れましたが、12月は市場の流動性が8月同様に低下する時期であることを踏まえれば、歴史は繰り返すかもしれません。ただし、現時点では以前と比べてそれほど多くのキャリー取引が見られていないことから、市場への影響はより控えめになると予想しています。
さらに、日銀はFRBをお手本にしていると考えているのですが、金融政策決定会合の前にその意図を市場にリークすることがかなり明確になっているように思います。金融政策はサプライズを回避すべきでありますが、日銀はより明確かつ継続的にもっと良いコミュニケーションをすることが出来ると思います。しかしながら、少なくともこの点において、日銀が市場参加者の反発に耳を傾けてくれることを願っています。
先週の欧州市場の動きは比較的穏やかなものとなりました。英国債のアンダーパフォーマンスは続いており、先週発表された英国のインフレ率が市場予想を上回ったことで、我々が警戒していた通り、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)がこの先利下げ出来る余地が極めて少ないことが浮き彫りとなりました。
一方で、借り入れコストが労働党政権の予想を上回っていることから、英国予算において利払い費用は高止まりしており、財政余地もほとんどない状態となっています。仮に利回りがさらに上昇すれば、労働党政権は税率をさらに引き上げざるを得なくなり、政治危機が急速に現実味を帯びることとなるでしょう。
妥当かどうかはわかりませんが、英国は財政持続性に関連した試練に脆弱であり、その点では同国がリズ・トラス氏の負債を抱えているとも言えるでしょう。好き嫌いは別にして、英国はある種「炭鉱のカナリア」のようになり、どの政党の英国政府であれ市場に注意を払い、政府は力に限界があるために市場に諭されるとの考えを持つ投資家と、いかなる衝突も回避するために全力を尽くすでしょう。
社債市場における需給要因はこの先年末に掛けて引き続きスプレッドの追い風になるとみています。ただし、ドイツ国債に対するユーロのスワップ・スプレッドがこの先さらにどの程度縮小できるかどうかは定かではありません。ドイツで来年2月に予想される総選挙を前に、CDU(キリスト教民主同盟)が「黒いゼロ」として財政均衡へのコミットを緩めることは想像しづらいためです。引き続き今のところは米ドルを強気にみており、ユーロに対する円のロング・ポジションにも確信を持っています。日独の金利差が縮小していることで、日本の投資家にとって、ユーロを円ヘッジするコストが安くなってきています。また、日本国債の利回りが上昇し、日銀が債券市場から手を引けば、国内投資家は海外投資を減らし、国内投資を増やすと予想されます。
今週のコメントは通常よりも長いものとなっており、当コメントを読んでくださっている皆様にここで一度お詫びすべきなのではないかと考えています。事実として、かなり多くの出来事があり、書きたいことがたくさんあり過ぎる状態で、上記の段落でも書ききれないこともたくさんあります。
ただし、米国の感謝祭の祝日に掛けて市場のボラティリティが徐々に落ち着いていくとの見方が正しければ、来週はもっとたくさんのお伝えすべきことがあるかも知れませんが、少なくとも表面上は静かな状態に向かっていくでしょう。いずれにせよ、この先を見据えると、市場環境は政策及び政治面での不確実性によって特徴付けられるとみており、金融市場のボラティリティの要因となるでしょう。
そのような点を踏まえれば、自社のリサーチを徹底することで政策当局者の考え方を常に見極めることが、最も効果的であるように思えます。今後も、これらのトピックに関連した我々の洞察や考え方が、アクティブ・リターンを創出する上での有効なエッジとなることを期待しています。
そんな中先週は、ウクライナ軍が西側諸国提供のミサイルをロシア領内の標的に向けて発射したことに対して、ロシアによる武力での威嚇が見られ、世界の終わりがほんの目の前に迫っているかのような感覚に襲われました。とは言いながらも、現時点では、ロシア側の発言は何よりも同盟国間での意見の不一致や不和をもたらすことを目的としたものであったと捉えています。
キリスト教文化における「終わりの時(The End Times)」が近いかもしれないと強調される中で、トランプ氏が暗殺未遂を生き延びた能力や、彼の再選が「聖なる予約(Divine Appointment)」であったと捉える向きもあるようです。ドナルド・トランプの「再臨(Second Coming)」とはやや行き過ぎたイメージのように思えます。ただし金融市場では、もしくは人生のあらゆる局面において、実在しないものが見えてしまうような罠に陥ってしまうこともあるようです・・・
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