選挙前の神経過敏、それともいわゆるチーズの汗?

Nov 05, 2024

考えるべき材料が豊富

コメント要約

  • 先週の金融市場では、市場参加者が今週火曜日に控えた米国選挙の結果を待ち構え、日々やり過ごしているかのような様子が見られました。世論調査は何カ月も両候補者の接戦が続いていることを示しています。
  • 選挙結果に拘わらず、米国では支出拡大とともに財政政策が拡張的になるとの見方を踏まえ、米国イールドカーブのスティープ化を予想したポジションを維持しています。
  • 南欧の経済見通しが比較的良好であることは政策当局の高官から歓迎されているものの、北部欧州の状況は引き続き低調にみえます。
  • 日本では方向感に乏しい政治的進展が見られているものの、日本経済や日銀の動向にそれほど大きな影響をもたらさないとみています。

先週の金融市場では、市場参加者が今週火曜日に控えた米国選挙の結果を待ち構え、日々やり過ごしているかのような様子が見られました。過去数週間で、世論調査上の勢いはトランプ氏に傾いていますが、そのような結果は既に一部の金融資産の価格に織り込まれたように思われます。

賭け市場では、今やハリス氏勝利の可能性が3分の1程度として織り込まれており、同氏が勝利した場合、市場にはややサプライズとなりそうです。

どちらかと言えばトランプ氏勝利を予想していますが、世論調査の結果は依然拮抗しており、改めて、この選挙は最終的に少数の激戦州におけるわずか10万人ほどの有権者の動向によって決まる可能性があることを思い起こしています。その意味で、投票日当日の投票率も重要な要素となるでしょう。

また、通常はトランプ氏勝利の可能性が過小評価されやすいとされる世論調査ですが、今回の選挙では、ハリス氏を支持する女性の有権者が多いという性別による分断を考えると、ハリス氏支持が過小に見積もられやすいと言えるかもしれません。したがって、結果を巡っては不確実性が残っており、これまでにも事前の調査が実際の結果と大きく異なることがあったことも踏まえ、いかなる結果にも備えておくことが賢明と言えるでしょう。

そのような点を踏まえ、ここ最近トランプ氏優位のモメンタムによって恩恵を受けてきた一部の方向感を持ったポジションにつき、足元では削減もしくは解消しています。先週は、直近スプレッドのパフォーマンスが良好であった一部の現物社債を売却することで、ポートフォリオ全体の社債の市場ベータ・エクスポージャーを削減しました。

一方で、選挙結果に拘わらず、米国では財政政策が拡張的になるとの見方や、それによってこの先ターム・プレミアムは大幅に拡大する可能性があるとの見方を維持していることから、米国イールドカーブのスティープ化を予想したポジションに関しては維持しました。

さらに、ユーロや英ポンドに対する米ドルのロング・バイアスも維持しました。ハリス氏の下でもトランプ氏の下でも、欧州経済と比較した米国の経済成長における例外主義が継続する可能性があるとみているためです。

しかし、トランプ氏が米国の貿易相手に対する関税引き上げを掲げていることを踏まえると、同氏勝利が最も米ドル高を促しやすい結果になると言えるでしょう。

金利デュレーションに関しては、全体としてフラットとすることを選好していますが、唯一日本においてはショート・ポジションに対する確信を維持しています。また、米国と比較してユーロ金利がやや良好なパフォーマンスになると予想しています。

今後数週間で発表される米国の経済指標は、多くがストライキやハリケーン関連の影響を受けるとみられ、やや読みづらい展開となりそうです。次回の米雇用統計においても幾らか下振れリスクがあると言えますが、仮に実際そのような結果になったとしても、特段何らかのフォワード・ルッキングな示唆を含むものではないと考えています。

とは言いながらも、米連邦準備制度理事会(FRB)は今週木曜日に政策金利を4.5%に引き下げるとの見方を維持しています。また、12月にも追加利下げを実施する可能性はありますが、そのためには成長やインフレが減速しているさらなる証拠が得られる必要があるでしょう。そのような点を踏まえ、仮にトランプ氏勝利がリスク資産のさらなる上昇や金融環境の緩和につながった場合、FRBの据え置きという選択肢に議論の余地が生じるかもしれません。

欧州では、7-9月期のフランスのGDPが幾らか想定を上回ったことが政策当局に安心感をもたらしたと言えそうですが、その一部はオリンピック効果である可能性も十分にありそうです。スペインのGDP成長は堅調で、過去12ヶ月間で3.4%の成長を見せるなどG7諸国を上回るペースとなっています。

しかし、ドイツやその他北部欧州の国の状況は引き続き極めて低調です。多くの側面から、そのような状況は先週、フォルクスワーゲン(VW)が独国内の3つの工場を閉鎖し、数万人の雇用を削減するとの発表に象徴されていたようにも思えます。規制やエネルギー費の高止まりによって、ドイツの製造業は痛々しいほどに競争力を失っています。その結果、VWは残りの労働者に賃金の10%減を受け入れるよう求め、ドイツ最大の産業別労働組合であるIGメタルが7%の賃上げを要求するとの発表とは、極めて対照的となっています。

構造的な過剰キャパシティの影響もあり、自動車セクターが台風の目となっていることは事実である一方、化学などエネルギー集約型のセクターも同様に悲観的な状況です。シーメンスのCEOは、現時点でドイツに投資をすること自体が「無意味」であるとしました。

南欧の経済見通しが比較的良好であることは事実ですが、EU全体の見通しは引き続き暗く、政策当局の高官からも、フランスやドイツにおいて政治的なリーダーシップが見られない現時点において、構造的な課題に対処するために出来ることはほとんどないと認める発言が見られています。

その点で言えば、ドイツ国債は先週他の市場をアンダーパフォームしてはいたものの、その動きは特段正当化されるものではなく、さらなる利回りの上昇が見られれば、ユーロ金利のポジションを積み増すことを検討する方針です。

英国では、レイチェル・リーブス財務相による予算案の発表が注目を集めました。一部の心ないメディアから「レイチェル・“シーブス”(Thieves=泥棒)」とも呼ばれてしまった同氏は、複数の増税案を発表し、労働党政権は国民の税負担を50年振りの高水準に引き上げました。

成長と生産性を押し上げるために英国経済への投資を拡大する意志は称賛に値しますが、多くの点において資源の非効率的な配分も見受けられ、望んだ結果が得られるかどうかは時間とともに明らかになることでしょう。

さらに、負債水準の上昇や利払い費の増大に対する懸念も燻る中、この先の英国債発行におけるプレッシャーを和らげるため、計画は前倒しされるよりは後ろ倒しとなる可能性が高いとみられます。その意味で、今後数四半期における予算案の変更による影響は市場の落胆を招く可能性があるとみています。

一方で、雇用主による労働コストの負担増が消費者へと転嫁されることが予想され、生産性の伸びはほとんど見られない中でも、賃金上昇ペースがインフレを大幅に上回る状態が続くと予想されます。イングランド銀行(英中央銀行、BoE)はほぼ確実に11月に利下げを実施するとみられますが、その後は、インフレに関する悪材料によってさらなる利下げを実施出来る余地は抑制されていくとみています。

英国債市場は先週ジェットコースターのような動きを見せ、ここ最近他の国債市場をアンダーパフォームおり、既に悪材料は概ね価格に織り込まれたと言えるかもしれません。しかし、英国債に対して強気な見方を形成することは難しく、また英ポンドに対しても比較的弱気な見方を維持しています。

前週末に実施された日本の総選挙では、石破新首相とその連立政権が大敗する結果となりました。連立政権は過半数を失いましたが、野党の政策アジェンダに大きな開きが見られることから、引き続き自民党が少数与党を率いる格好で、短期的には石破氏が首相を続投する可能性が高いとみています。

来年夏に参院選が控える中、来年の初めには石破氏に代わって新たな自民党総裁が選出される可能性があるでしょう。しかし、そのような政治的進展は、日本経済や日銀の動向にそれほど大きな影響をもたらさないとみています。賃金の上昇傾向は続き、これは構造的な労働力不足に起因するものです。

過去10年間で、高齢化社会によってインフレ率が低下するとの見方があったことが興味深く思い起こされます。ただし日本では、75歳を超えた人たちの間で経済活動が急速に低下することで、労働市場における供給がしぼみ、賃金上昇圧力になるとともに、消費者にとっての物価圧力につながっています。

この先、日銀は今年12月もしくは来年の1月に0.50%への利上げを実施し、さらにその後12ヶ月間で50bpsの利上げを実施するとみています。日本経済がユーロ圏の大半と比べて活気を保っていることを踏まえれば、両経済の金利差はこの先数ヶ月で大きく縮小していくと予想されます。また、円も構造的に割安となっている中、この先1年ではユーロに対する円のロング・ポジションが最も説得力のある為替取引の1つとなる可能性があるとみています。

先週は、株式市場が概ねレンジ内の動きとなる中、社債市場のボラティリティも比較的低位に留まりました。そんな中、良好な業績発表によって銀行セクター全般が底堅い動きとなり、またより広範に言えば、米国企業の業績は引き続き概ね健全な状態です。

客観的に言えば、この先の経済や政策、地政学的な不確実性を考慮すると、投資適格社債のスプレッド水準は割高な水準に向かっているようにも見えます。しかし、社債と比較して国債の発行が過多となっている状態は、継続的にスプレッドのタイト化を促す需給面での追い風となっています。このことはユーロ・スワップ市場で引き続き確認されており、量的緩和(QE)の巻き戻しがAAA格の国債の担保需要の巻き戻しにつながっています。

その他では、ブラジルやコロンビアなどの中南米諸国では政治的な進展が影を落としたほか、南アフリカについてはロシア寄りの姿勢を見せていることが海外投資家から見た同国のイメージ悪化につながっています。

今後の見通し

来週の今頃は、ようやく米国選挙が終わっていることでしょう(かなりの激戦で結果が僅差となっていない限りは、ですが)。市場のボラティリティはおそらく上昇する可能性が高いですが、トレンドとして持続はしないと予想しています。したがって、今週火曜日を迎えるにあたっての作戦は、過度な価格動向が見られた場合、その後の反転の動きを予想して、買いもしくは売りのポジションを構築する機会を探る、というものです。

とは言いながらも、今後の展開に予断を持たずにいることが重要であると考えています。トランプ氏とハリス氏に対する支持は二極化していますが、新たな政権が(ただ口で言うだけではなく)実際に何を成し遂げるかを冷静に精査することが、今後のマクロ経済トレンドや投資機会を見極める上で重要になります。この先の動向や感情の高ぶりを熟考すると、安っぽい(“Cheesy”)ダジャレやコメントを言っている場合ではないかもしれません。

ただ先週、「英国の偉大なるチーズ(“Cheese”)を強盗」との見出しとともに、23トンもの高級なチェダー・チーズが行方不明になったとの報道に触れましたが、高級チーズにかけた安っぽいダジャレとしか思えませんでした。トランプ氏の顔をモチーフにした食べ物の画像が数多く出回る中、政治的な意味合いを込めたフード・アートの世界には多くの可能性を感じさせられます。セイ・チーズ…!

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