K-Popさながらの政治リスク

Dec 09, 2024

「未知の未知」に注視すべきです

コメント要約

  • ようやく米国政治に落ち着きが見られようという中で、他の地域において政治的進展が相次いで出現しました。
  • この先の金利の方向感は概ねインフレ指標などの経済指標に左右される展開となるでしょう。
  • 複数の国が直面している構造的な問題により欧州に対して引き続きやや悲観的な見方を持っています。
  • 今後を見渡すと、今回の利下げサイクルではあと1回の利下げののち、米連邦準備制度理事会(FRB)は一旦様子見モードに入り、これまでの政策行動の影響を見極める時間を設けると予想しています。

先週の金融市場では、金曜日に注目の米雇用統計の発表が控える中、米国債利回りは概ねレンジ内の動きとなりました。しかし先週は、ようやく米国政治に落ち着きが見られようという中で、他の地域において政治的進展がまさに噴火のように相次いで出現しました。フランスでは、バルニエ内閣に対する不信任決議が可決され、内閣が崩壊しました。

ルーマニアでは、議会選挙において親EU及び親北大西洋条約機構(NATO)派への支持が見られたことで、国家主義的で右翼寄りへのシフトに対する警戒感が一定程度和らぎました。

そんな中韓国では、尹錫悦大統領が「非常戒厳」を宣布するという、極めて軽率ともとれる政治的な賭けに出たことが、ショックと混乱をもたらしました。結果として同大統領自身が弾劾訴追の対象となり、求心力低下は免れられない状況となりました。この動きを受けて韓国資産は急落しましたが、その後は即座に当初の下落を取り戻す動きが見られました。しかし今回の出来事を受け、安定した、先進国市場の国として韓国の地位を確立させようという試みは、一気に振り出しに戻ってしまったようにも思えます。

韓国の一人当たりGDPは3万3,000米ドル程度と、スペインなどの国をやや上回る規模ですが、ここ最近の進展を踏まえ、投資家は引き続き同国がむしろ「エマージング市場」の国になりつつあるとの認識を深めるかもしれません。

とは言いながらも、今日我々は、世界的に政治変動や不確実性が高止まりする時代に生きています。多くの民主主義国家の有権者は、ここ最近の物価上昇や所得格差の広がり、社会的緊張の高まりに鬱憤を抱えた状態にあると言えるでしょう。

実際、韓国は比較的(騒々しいものの)健全な民主主義があると受け止めています。一方で性別に基づいた政治や、韓国人女性が国内の男性を拒絶するという、急進的フェミニズム「4B」運動に象徴的な通り、ある種の分断国家であることも事実です。その意味で、今や出生率が世界で2番目に低いとされる韓国において、鬱積した緊張があったとしても不思議ではないとも言えるでしょう。

フランスに話を戻すと、同国が直面している多くの問題の根底にある原因はやや異なるように思えます。端的に言えば、フランスは伝統や文化に富んだ美しい国であり、フランス国民もそれを大事にしています。しかしフランスには、生活水準や生活様式に対する権利意識があり、変化や改革に抵抗を示しやすい国となっています。

ただし、債務水準が上昇し、EUの過剰赤字手続き(EDP)の対象国となるなかで、フランスはここしばらくの間、分不相応な生活をしているかのようにも見え、確実に変化が起きる必要がありそうです。南欧諸国のこれまでの経験は、そのような状況において、変化はある程度の痛みと危機感が募った後にしか起こらないことを物語っています。フランス国債の対ドイツ国債スプレッドが80bps上回っただけでは、その時点にはまだ到底達するとは思えず、現時点ではそのような状況は当面起こりそうにありません。

歳出削減と緊縮財政は政治的に不人気な政策であり、ルペン氏と、同氏が実質的に主導するポピュリスト寄りの政党である国民連合(RN)がバルニエ内閣の予算案を拒否しようとし、結果として崩壊につながったことは驚くべきことではありません。近い将来、マクロン氏は新たな首相を指名し、新内閣が誕生するかもしれません。この場合、歳出削減が骨抜きとなれば、新たな予算の通過が可能となるかもしれません。

あるいは、安定した内閣を樹立することが出来なければ、2024年予算が来年に延長され、結果として赤字幅は2024年の6%と同水準となるでしょう。いずれにせよ、ルペン氏は来年7月の新たな議会選挙を見据え、チャンスを窺うことが可能であるとみられます。これは目先、フランスの信用力が構造的に悪化傾向を辿り続けることを示唆します。

したがって、現時点ではスプレッドをさらに大幅に拡大させる明確なきっかけは見当たらないものの、フランスに対してはネガティブな見方を維持しています。そのような見方に基づき、フランス国債のポジションは今のところフラットとしていますが、今後数ヶ月の間にスプレッドが縮小すれば、来年にもフランス国債のショート・ポジションを構築する機会を探りたいと考えています。

長期的に見ると、フランスにとってより大きなリスクは、2027年の大統領選挙の時に訪れるとみています。マクロン大統領に対する有権者の反感は強まる一方であるように見え、もし今日選挙が行われたとしたら、フランスの有権者が大統領選の決選投票で極左か極右かの選択を迫られることは間違いないとみられます。

実際に、まさにそのような状況こそが、不人気にも拘わらず、マクロン氏が現時点で辞任をしたくない最大の理由でしょう。一方で、債券の価格評価を見ると、フランス国債のスプレッドはギリシャ国債と並んでおり、スペインよりも大幅に拡大した水準にあります。フランスの方がイタリアよりも信用力が高い、という通念に疑問を投げかけることが日増しに適切になっているように思えます。

イタリアに関して言えば、債務水準は非常に長きに亘って高止まりしてきましたが、国の財政に対する責任ある姿勢によって、近年は比較的均衡したプライマリー・バランスを実現してきました。対照的に、フランスははるかに力強い立ち位置を出発点としていながら、イタリアに比較的早いタイミングで追い越されようとしています。

さらに、イタリア政府やイタリア社会は、債務の持続可能性が疑問視された場合に何が起こるかという過去の教訓から着実に学んできたようで、同じ過ちを繰り返す気はないとみられます。フランスでは、これらの教訓は経験からしか学べないように見受けられ、フランス社会全体にとって、変革の必要性を受け入れることが重要となるでしょう。

欧州の他の地域を見渡すと、地域的に引き続きやや悲観的な見方を持っています。多くのコメンテーターは、マリオ・ドラギ氏が述べたような、大陸欧州が直面している主な構造的課題に言及することでしょう。しかしながら、この問題について多くを成し遂げようとする政治的意志があるようには見えず、フランスでの政治的空白や、ドイツで予定された総選挙も踏まえれば、この状況が今後数ヶ月の間に大きく変わるとは思えません。しかし、同地域が直面する課題はますます看過出来ないほどに増大していくと見られることから、中長期的には欧州の財政出動に向けて動いていくとみています。

景気見通しが低迷している中でも、ユーロ金利に過度に強気になることに慎重である理由は、このような財政面でのリスクです。一方、2025年の経済状況を予想すると、景気は足踏み状態でありながらも、インフレ・リスクは下振れよりも上振れ方向に傾く可能性があるとみています。これは、12月の会合での25bpsの利下げはほぼ確実と見られるにせよ、その先欧州中央銀行(ECB)が利下げを出来る余地を限定するものとなるかもしれません。

また、英国でもインフレ・リスクが顕在しており、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)によるさらなる利下げを抑制する要因になるとみています。しかし、たとえ他国と比べて政策金利が高止まりしたとしても、英国経済における緩やかなスタグフレーション傾向は、英ポンド相場の支えにはならないとみています。

日本では、12月19日の会合における0.50%への利上げの可能性を見極める上で、植田総裁や日銀高官から、より多くの発言があるかどうかに注目しています。今のところ、金融市場で織り込まれた利上げ確率はわずか3分の1程度で、会合における政策サプライズやその後の市場変動性の可能性を最小限に抑えるためには、日銀が会合に先立って市場にメッセージを発信することが重要になると考えます。金融市場は世界的に日銀の会合直後にほぼクリスマス休暇に入ってしまうことため、市場流動性は低下するとみられます。その点を踏まえると、日銀は今年8月の市場変動性の高まりを再び繰り返すことは避けようと努めるでしょう。

しかし、東京CPIは11月に2.6%まで加速し、来年1-3月期には5%を超える賃金上昇も見込まれることから、日銀が政策対応を遅らせる経済的正当性はほとんどないように思われます。実際に日銀も、日本の中立金利に対する考え方を上方修正しているように見受けられることを踏まえれば、尚更です。

先週は、リスク資産が概ね前向きな雰囲気の中で取引されました。ビットコインはついに10万米ドルを突破し、S&P500 種指数も6,100前後で高値を更新しました。そのような環境下、社債スプレッドも縮小を続け、スワップ・スプレッドも縮小基調となりました。米国の選挙以降、広範な戦略においてクレジット・リスクを削減してきました。

一方、スワップ・スプレッドの動きは、十分に進んだと判断出来る水準まで縮小したとみており、少なくともユーロ圏ではこの動きが反転する可能性があるとみています。例えば、今年初め頃には30bpsを上回っていた10年のスワップ・スプレッドが、足元では-3bpsまで縮小しています。この動きの一因は、豊富な国債発行と財政浪費に対する将来的な不安です。

また国債にとっては、過去の量的緩和(QE)の巻き戻しもマイナスに働いていると言えます。ほんの2年ほど前には、相対的な希少性によってスプレッドは80bps以上に拡大していましたが、足元ではドイツ国債を保有する必要性が減ったことで希少性が低下したためです。しかし、足元では既にこの動きは行き過ぎな水準に達したとみており、中期的に反転する可能性が高いと考えています。

EUの財政政策によって来年、EU債の大量発行につながれば、スワップ・スプレッドは拡大すると予想されます。また、ドイツ政府が均衡予算の「黒いゼロ」政策を堅持するシナリオや、政治的な団結を欠いている中、政治的緊張の高まりによってEU崩壊リスクや通貨同盟の安定性への疑念につながるといったシナリオにおいても、スワップ・スプレッドは拡大に向かうでしょう。

反対に、ドイツの財政状況が大幅に悪化しない限り、スワップ・スプレッドがさらにマイナス圏を深掘りして-20bps近辺になる可能性はないでしょう。米国債との比較においては、GDPに対する債務が米国のわずか半分であり、ドイツ国債の担保は少ないという点を念頭に置く必要があるでしょう。

今後の見通し

この先を見据えると、月後半に予定された米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、インフレ指標などの経済指標に注目が集まるでしょう。目先の経済指標予想は概ね堅固な内容ですが、ここ最近の米当局の発言を踏まえ、金融市場では12月の米利下げ確率が75%程度と織り込まれています。

そのような織り込み具合にそれほど違和感はないものの、引き続き今回の利下げサイクルではあと1回の利下げののち、FRBは一旦様子見モードに入り、これまでの政策行動の影響を見極める時間を設けると予想しています。同時にそのような期間は、この先次期トランプ政権による政策やその変更が米国経済に与える影響を精査する上での好機にもなるとみています。

その上で、次回の会見でのパウエルFRB議長の発言を興味深く見守りたいと考えており、成長やインフレ予想が引き上げられ、ドット・チャートもこれまで見られていたよりも「より長く、より高く」金利が留まる予想が示されるとみています。

そんな中、先週の韓国での出来事は、「未知の未知」に注視すべきであるということを改めて思い起こさせるものでした。この先、経済的、政治的、そして地政学的な不確実要素は間違いなく豊富にあることは、これまでにも述べてきました。先週、K-Popさながらに跳ねた韓国発の市場変動性は短命に留まりました。しかし、その他の進展は実際はより長期化するのかもしれません。

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