ハリス氏のピークは今?それともまだこれから?

Aug 26, 2024

政治面では、短期間に多くの展開が予想されます。

コメント要約

  • インフレ指標が落ち着いた状態が続けば、米連邦公開市場委員会(FOMC)は9月に25bpsの利下げを実施し、同程度の利下げをその後12月及び来年1-3月に実施すると考えています。

  • 週次の失業保険申請件数は引き続き比較的健全な労働市場を示唆しています。

  • 米国大統領選まではあと73日となっており、投資家の目線からするとレースはかなり僅差に見えます。

  • 地政学面では先週も水面下で緊張が続きました。中東やウクライナ情勢は不安定な状態が続いています。

  • 依然として多くが不安定な状態で浮かんでおり、極めて重要なイベントもまさにこの先に控えています。

先週の金融市場では、債券利回りが低下基調となりました。CTAなどの投機筋がデュレーションを積み増したことや、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げを開始すれば、50bps単位で実施する可能性もあるとの観測が高まったことが、その背景にあります。

RBCブルーベイでは、そのような道筋は極めて想定しづらいとの見方を維持しており、インフレ指標が落ち着いた状態が続けば、9月に25bpsの利下げを実施し、同程度の利下げをその後12月及び来年1-3月に実施するとこれまで示してきた米連邦公開市場委員会(FOMC)が、自らの考えを大きく変化させる理由はほとんどないとみています。

FRBがより積極的な緩和軌道を歩むとの見方の背景には、米国経済がリセッション入りするとの見方が存在しているようです。数週間前に、市場コメンテーターが「サーム・ルール」に言及したことがその象徴でした。同ルールは、直近3ヶ月の移動平均で見た失業率が、過去12ヶ月の最低値を0.5%ポイント上回る場合に米国経済がリセッション入りすることを示唆するものでした。

これは直近発表された雇用統計で実際に確認されました。ただし、直近の失業率はハリケーンの影響でやや上振れたとの見方もあるようです。実際に、(サーム・ルールを提唱した)クラウディア・サーム氏自身も、現時点において米国経済がリセッションに至っていることを示す証拠はないと一定の慎重姿勢を示していることは興味深いと言えるでしょう。

そんな中先週は、米労働省の労働統計局(BLS)が月次の雇用者数の基準改定値を発表し、2024年3月までの雇用者数の極めて力強い伸びの一部が下方修正される見込みとなりました。しかしこの改定には、保険に加入し、書類が整った労働者のみが含まれ、書類に残っていない移民などの労働者による雇用は考慮されていない可能性があります。

したがって、改定値における過去まれに見る下方修正が、FRBの政策決定に与える影響は限定的であるとみています。さらに、今のところは、週次の失業保険申請件数も比較的健全な労働市場を示唆しています。

その他の米国経済指標は、引き続き米国経済がトレンドに近い成長を続けていることと整合的です。米ウォルマートやターゲットなどの決算は概ね上向きで、米消費者が比較的自由に消費を行っている傾向が見受けられます。

さらに、FRBが注視している金融環境指数も、過去1年間で最も緩和した水準にあります。いずれも、政策金利に関してパニックを起こす必要はないことを示唆しており、見通しがより大幅に変化しない限りは、政策は安定的な道筋を辿ることが出来ることを示しているとみています。

先週シカゴで開催された米民主党全国党大会(DNC)では、ハリス氏が極めて活気に溢れた雰囲気で包まれました。週初めには、大統領選の賭けサイトにおいてハリス氏がトランプ氏からリードを奪う場面も見られましたが、週後半に掛けてその勢いはやや失速したと言えるかもしれません。

ハリス氏の急速な追い上げは、ほんの少し前までは同氏が候補者になり得るか疑問視されていたことを踏まえれば、奇跡的とすら言えるかも知れません。同氏のキャンペーンに勢いがあることは明白ですが、これがいわゆるハネムーン期のような一時的な現象に留まるのか、もしくはそのリードを確たるものとし、支持を集約することが出来るかどうかについては、いずれ時間が教えてくれることでしょう。

米国大統領選まではあと73日となっており、投資家の目線からするとレースはかなり僅差で、現時点で勝者を予想することは難しいと言えます。詰まるところ、政治の世界はほんの短期間でも多くのことが起こり得るものであり、実際にハリス氏出馬のきっかけとなった、バイデン氏にとっての悪夢の候補者討論会はわずか54日前の出来事でした。

予想できるシナリオでは、トランプ氏勝利に加えて共和党の全勝というケースも残っており、減税策等を踏まえてこれが最も財政拡張的な結果になるとみています。

その意味で、ほんの1ヶ月ほど前、そのような結果の可能性が明らかに高まっていた際に、中期的な財務持続性に対する懸念の高まりを背景に、長期債がアンダーパフォームする格好で米国債のイールドカーブがスティープ化したことは概ね合理的であったように思えます。一方足元では、ハリス氏が台頭する中でその流れが反転し、イールドカーブはフラット化基調にあります。

しかし、ハリス氏は明らかに財政タカ派ではありません。ハリス氏の掲げる政策は、多くの側面から経済的な意味でバイデン政権下で見てきたものとほぼ同等と言えるでしょう。その意味で、現大統領下において、完全雇用を達成し経済は堅調でありながらも、米財政赤字が対GDP比7%近くとなっていることには留意すべきでしょう。

実際、ハリス氏には支出を続ける意向があると見られます。また政治家らも、債券市場が財政拡張的な計画を明確に否定する動きを見せていないと捉えており、ワシントンDC界隈でも財政赤字縮小に対して全般的に関心が薄いように思います。結局のところ、30年債利回りは預金利回りをはるかに下回る水準にあり、そのような逆イールドの状態が、結果として歳出を続け、減税を続けたい政治家に青信号を提示する役割を果たしていると言えるでしょう。

したがって、選挙結果に拘わらず、米イールドカーブのスティープ化を予想することは適切であると考えており、現状の水準において長期債利回りにそれほど投資妙味はないと判断しています。

地政学面では先週も水面下で緊張が続きました。ガザでの平和条約締結に向けた、ブリンケン米国務長官による直近の前向きな働きかけも、残念ながら行き詰まりの状況にあるようです。

ネタニヤフ大統領は、今はまだ軍事作戦から撤退することによる恩恵が限られていると見ているようで、イランが衝突激化の可能性を示唆する中、国際的な反発や人的コストにも拘わらず、イスラエル側はハマス撲滅作戦を継続する可能性があるでしょう。

最終的には、交渉による解決策が見出される必要がありますが、ネタニヤフ氏は、仮にトランプ氏が再選することになれば、最終的な合意がより自身に有利になることを重視するでしょう。

とは言いながらも、仮に和平に向けた協議が短期的に合意に結びつかなければ、イラン側は攻撃を激化させる必要性を感じると見られ、中東情勢は極めて不安定な状態が続くでしょう。また、現時点ではウクライナにおける進展にも同じことが言えます。ウクライナ軍による、直近のロシア・クルスク州への越境攻撃は極めて予想外の展開でした。

ロシア国内での軍事作戦において西側諸国の兵器が使用されている中、プーチン大統領が大規模な反撃を目論むリスクは高まっているとみています。しかし、それがどのような形になるのかは明確ではなく、ロシア側を和平交渉に引き込むためのゼレンスキー大統領の賭けが、期待通りの結果をもたらしてくれることを願ってやみません。

フランスでは、夏のバカンス・シーズンとオリンピック開催などが人々の関心事となる中、ここ最近状況が落ち着いています。しかし、この先秋にかけては、政策担当者が来年の予算案の編成を始める中で、再び政治情勢に注目が集まるとみています。

マクロン氏を支える左派政党は政府の歳出増につながる妥協案を要請するとみています。結果としてフランスの財政赤字は拡大し、ある種EUと衝突しかねない道筋へと向かう可能性があるでしょう。そのような状況は、フランス国債のさらなるアンダーパフォームにつながる可能性があるとみています。ただし、2027年の仏大統領選前までは、フランス10年国債のスプレッドは拡大したとしても100bps未満に留まると予想しています。

過去数週間で投資家のリスク許容度が回復する中、CDS指数のスプレッドは8月初めの市場の混乱以前の水準に概ね回帰しました。現物債の反発はやや出遅れており、また9月に掛けては、例年1年で最も新規発行が増えることからも季節的な需給要因で軟調となる可能性があるとみています。

とは言いながらも、今年の発行額は予想をやや下回るサプライズになるとみており、結果として社債の需要と供給がテクニカル面で市場の支えとなり、また国債に対する需要の減退も相まって、社債スプレッドの縮小を促す可能性があるとみています。世界的に財政赤字が目立つ中、国債の発行は比較的豊富となっています。

一方で、国債に対する、特にアジアの大口投資家からの需要は限定的で、日本の場合は為替ヘッジ・コスト、中国の場合は地政学面の懸念や米国が米ドルを「武器化」しているとの考えなどが、それぞれ妨げとなっています。

今後の見通し

夏が終わるまでには、まだ数週間残されています(ただし英国では、そもそも夏の訪れを明確に感じることが出来なかった人も多いかも知れませんが)。今週は英国で祝日を挟むやや短い一週間となり、その後米国でのレイバー・デイの祝日を経て、9月初めに本格的に市場が再開されます。

そこでは、米雇用統計が極めて重要なリトマス紙テストとなり、9月のFOMCに向けてのFRBの姿勢が決定される局面に入ります。米国経済に対する見通しはここ数週間で大きく変えておらず、引き続き多くの金融機関や利害関係者が、保有する資産において抱える含み損を和らげるために、より積極的な金融緩和を待ち望んでいるとのやや皮肉な見方を持っています。結果としてそのような市場参加者が、FRBによる50bpsの大幅利下げを最も声高に訴えていることと無縁ではないでしょう。

2024年もほぼ4分の3が経過しましたが、依然として多くが不安定な状態で浮かんでおり、極めて重要なイベントもまさにこの先数ヶ月間に控えています。その意味で、まだ年末までに多くの展開が予想されます。

ポートフォリオの運用においては、現状日本及び米国金利のショート・ポジションを取る一方で、クレジット債のロング・ポジションを取っています。これらのポジションを通じて、短期的なリセッション確率は低く、この先数ヶ月間で経済はハード・ランディングではなく、ソフト・ランディングに向かっていくとの見方を反映させています。

米国政治に関して、この数日間を経て自らに問いかけている疑問としては、ハリス氏にとって今がピークなのか、もしくはピークはまだこの先なのか、ということです。確かに言えることは、今回の大統領選において、候補者間の攻撃や性格描写が日増しに個人的かつ見苦しいものとなっているということで、先週のニューヨーク・ポスト紙の「KAMUNIZM」(ハリス氏の名前とコミュニズムをかけた造語)という見出しにも、まさにその兆しが表れていたように思えます。

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