騒がしいトランプ氏、ただしまだ成し遂げたことはないのが救い(今のところは)

Feb 10, 2025

変動の激しい環境に備えましょう

コメント要約

  • 関税賦課の延期は一時的に安心感をもたらしたものの、市場はトランプ大統領による予想不能な関税政策やそれにより経済的混乱が起きる可能性を警戒しています。
  • 先週は、貿易政策に対する懸念が経済指標に影響を及ぼすとの見方が広がる中、米長期債利回りが低下しました。一方、FRBは政策金利を据え置き、ECBは追加緩和に動く可能性があるとみています。
  • 英ポンドが低迷し、インフレ圧力が長引く中で、イングランド銀行は利下げを実施しました。より大幅な緩和を主張した委員もおり、BoEの見解がかなりハト派寄りになっているとの認識が広がりました。
  • 日本では、堅調な賃金データを背景に国債利回りと円が底堅く推移しました。日銀の田村審議委員は追加利上げの可能性を示唆し、これは我々の考えとも一致しています。

先週は、貿易政策の動向が市場の注目の的となりました。トランプ米大統領は、各国政府の間に混乱を招いています。カナダとメキシコに25%の関税を課すとの脅しは、自動車やエネルギーなどの主要セクターにおけるこれらの経済の相互の結びつきによって、広範な経済的混乱の可能性を高めました。

このような関税が実施されれば、供給側でネガティブなショックがもたらされ、インフレを押し上げるとともに、成長に悪影響になり兼ねないと言えます。国境警備と合成麻薬フェンタニルの密輸に関連した譲歩によって、関税の賦課は1ヶ月延期されることとなりましたが、その脅威が完全に回避されたと結論づけるには時期尚早であるように思われます。

トランプ大統領からはこれまでに何度も、関税は歳入を増やし、米国に投資と生産を振り向けるための手段であるとの考えを述べており、これは「米国を再び偉大にする」という彼の使命に通ずるものです。したがって、メキシコとカナダの両国にある程度の関税は賦課されるとみているものの、両国の「良い行い」を踏まえて25%よりも引き下げられた水準になるとみています。

しかし、POTUS(アメリカ合衆国大統領:President of the United States of Americaの略称)の気まぐれな性格によって、貿易政策の進展を分析することが困難になっています。ただし、財務長官であるスコット・ベッセント氏でさえ、前週末に大統領執務室が発表したトランプ氏の関税計画を事前に見ていなかったように見えることは、その発言の前後から明らかです。

ごく少数の人物(おそらくピーター・ナバロ氏は含まれます)だけが、大統領の計画に従事しているようです。さらに、米財務省がいつ、何が起きているのかについて蚊帳の外にあるならば、市場参加者がほとんど何も知ることができないのも止む得ないでしょう。

より明確に見えるのは、トランプ大統領の関税攻勢における次なる標的はEUになるであろうということで、いつ25%の関税が発表されても不思議ではないように感じられます。EUが同等の報復をせず、さらに防衛支出の増額や米国からのエネルギー及び農産物の購入増額を約束すれば、関税は同様に10%に引き下げられるとみられています。

しかし、これまでのトランプ大統領の二国間交渉の幾つかに見られたように、EUが米国の要求にどの程度応じる用意があるのかどうかは明確ではありません。トランプ大統領は先週、ガザ地区を乗っ取り、その過程でパレスチナ人を追放するという極めて突飛な主張をしており、欧州の首脳陣の間では、トランプ大統が不安定かつ信頼出来ない相手であるとともに、誰かが対峙すべきいじめっ子であるという認識が広がっているようです。

しかし、EUがそのような姿勢で立ち向かうためには、一体感と強みを堅持した立ち位置が必要ですが、現実には、欧州経済は依然として弱く、政治的なトレンドとして各加盟国がよりナショナリズム的な方向に向かっているのが実情です。

先週は、マクロ的な不確実性のもとでアクティブ・リスクを削減しようとする投資家の動きもあって、米長期債利回りが低下しました。マクロ系ヘッジファンドの多くは、長期債利回りの上昇とボラティリティの上昇に賭けたポジションを取る傾向にあったため、1月の軟調なパフォーマンスを受けてポジションの解消も見られました。

引き続き、米国金利については概ねフラットのスタンスを維持していますが、経済状況が異なっていることを踏まえると、相対価値の観点からは、引き続き米国よりもドイツ国債を選好します。関税が米国のインフレにアップサイド・リスクである以上、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を引き下げる可能性は当面極めて低いとみています。一方で、貿易戦争が経済のダウンサイド・リスクを増大させる場合、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和を加速させる方向に動く可能性があるとみています。

その他欧州では、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)が先週、政策金利を25bps引き下げ、4.5%としました。この動きは概ね予想通りでしたが、2人の委員がより大幅な50bpsの緩和を主張し、BoEの見解がかなりハト派寄りになっているとの認識が広がりました。これを受け、為替市場では英ポンドが下落し、英短期金利は低下しました。

しかし、インフレが逆方向に動いている中、より長期の英国債利回りが同日にむしろ上昇したことは特筆すべきでしょう。インフレに関して言えば、今年の欧州は例年よりやや寒い冬となっており、ガスの貯蔵水準が低下し、ガスの先渡価格を押し上げています。

このため、英国のエネルギー価格上限は4月に5.5%前後上昇すると予想されます。それと同時に、地方税の増加や他の規制価格の引き上げも予定されています。結果として、4-6月期の英国CPIは4%程度となる見込みで、このような状況においては、BoEがさらに利下げを実施することは難しくなると考えています。

一方日本では、2025年に入ってからの堅調な賃金データを背景に、国債利回りが先週も上昇を続け、円も底堅く推移しました。日銀の田村審議委員は、今後12ヶ月間での50bpsの追加利上げの可能性を示唆し、これは我々の考えとも一致しています。

また緩やかなペースではあるものの、日本の国内投資家の間でも、必要とされる日本の中立金利水準に対する見方を上方修正しているように見受けられます。引き続き、日本の10年国債利回りについては今後数ヶ月間で1.5%に向かって上昇すると予想しています。しかし、日本においては足元で、金利市場における金利のショート・ポジションよりも、為替市場における円のロングにより魅力的な投資機会があるとみています。

今後の見通し

この先、米雇用統計に続いて数日後には米CPIの発表があります。しかし、ここ最近では、経済指標の発表がややホワイトハウスからの発表の影に隠れてしまっているようにも見えます。これまでの政策当局者との対話内容を踏まえ、米国政府は関税をある種、米消費者に対する消費税の一つの形態(ただし、国内生産者が支払いを免除されるもの)として位置づけているような印象を我々は持っています。

結局のところ、欧州は米国製品に付加価値税(VAT)を課税して、販売しています。このVATは、各国政府にとっての税収を生み出すことから、米国も同様だと考えており、なぜ米国が同じように税金を転嫁すべきではないのか、という主張につながります。この点で言えば、現在、米国では連邦政府の売上税はありません。

さらに、現在の米国の税制構造は、生産のオフショア化にメリットがあるように設計されています。したがって、その生産を再びオンショア化させることは、人と収入を米国にもたらすことになり、国益につながるとされているのです。

しかし、この米国の政策上の算段におけるリスクは、他国が効果的に報復できない、もしくはしないことを前提としていることです。この考え方は誤っているかもしれません。実際、カナダの場合、既に提示する準備ができている報復関税のリストを用意しているようであり、これは米国側の更なるエスカレーションを促し、両国にとってより大きな経済的苦痛を引き起こす可能性があるでしょう。

一方で、先週は中国に対して既に関税が賦課されました。また、小規模な貨物に関しての抜け穴が封じられていることも興味深い点で、つまり、これらの関税を回避することがはるかに難しくなっていることを意味しています。一部の人々は、警戒していたよりも小幅な10%の関税に留まったとして安心感を抱いたかもしれませんが、中国政府が静かにこれを受け入れるようには見えません。

米国政府は、米国のサプライチェーンにおける中国への依存を排除することを望んでいますが、これは一朝一夕に起こり得ることではありません。特に、クリティカル・ミネラル(重要な鉱物)の場合、中国はこれらの精製において圧倒的なシェアを有しているため、中国が米政権に対して行動を起こしたいと考えれば、中国が米国の鉱工業生産を大きく混乱させることはそれほど困難ではないと言えるでしょう。

このような点を踏まえれば、貿易政策の不安定性は、トランプ大統領の在任期間中を通して続く可能性のあるであると考えられます。この事実は、それのみであれば、企業の信頼感に影響を与るとともに投資を遅らせ、より軟調な経済動向につながるかもしれません。

また、移民問題やその他の政策問題においてトランプ氏が短期的に勝ち取るものは、今後長年に亘る、米国の外交上でのイメージや立場を著しく損なうことを犠牲にしている可能性があることにも注意すべきでしょう。

さらに、米国際開発庁(USAID)から撤退するというトランプ大統領の決断により、世界中に500億米ドルのプロジェクトが残され、一部は他の誰かによって引き取られたとしても、その他は宙に浮いた状態になる可能性があります。ガザ地区に関しては、トランプ大統領自身、地区全体を事実上ゼロから再建する必要があり、その間に建築現場に住むのは安全ではないし、適切でもないということを踏まえて、合理的に考えようとしていたと、好意的に捉えてみる人もいるかもしれません。しかし、そのような発言は贔屓目に見ても度が外れており、歴史や現場の現実政治をほとんど顧みていないと言えるでしょう。

それにも拘わらず、トランプ大統領は今非常に楽しんでいるように見受けられます。同氏の支持率は好調で、国内で非難を浴びせる側もなりを潜めています。米国経済は活況を呈しており、金融市場は高値で推移しています。彼は自分の体を振り回し、物事を成し遂げています。ある意味、トランプ氏にとっては今が最高の時であるかもしれません。

しかし、残念なことに、これはほとんど全てが彼の思い通りに進んでいるときに、同氏が物事を進めるやり方であり、ひとたび状況が悪化し始めれば、事態は不快な方向へと向かい兼ねないということも思い起こされます。したがって、引き続きリスクを低位に抑え、この先も慎重さを維持しながら進むことが賢明であるとみています。2025年が順調な航海になるとは到底想像出来ません...

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