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コメント要約
さて、終わってみれば米国の選挙は僅差でも何でもありませんでした。全ての激戦州での確実な勝利に加えて、トランプ氏は最終的に全米の得票数でも勝利しました。さらに、より重要な点として、共和党は連邦上院を奪還するとともに、おそらく(現時点では)下院でも過半数を獲得しそうです。トランプ氏はまさに完勝を収めたと言え、前回勝利した2016年と比較してもその信任はより強固なものであったと言えるでしょう。
多くの側面から、これは目を瞠る政治的カムバックであったと言え、多くの民主党支持者は文字通り言葉を失う格好となりました。詰まるところ、重要であるのは経済であり、一般庶民の日常生活に影響を及ぼす問題であるということが、今回の結果をもたらしたと言えるでしょう。またトランプ氏は、少なくとも自分自身、さらに自らの信念に忠実です。その点を踏まえれば、有権者は彼の愚かな行いや過激な言動の一部に赦しを与え、大統領としての彼の行動は、実際に言葉よりも現実的であったという点を重視する傾向にあったとみています。
米国選挙の結果を受けて、大方の予想通りにリスク資産は上昇し、債券利回りは上昇しました。とは言いながらも、利回りや米ドルの動きは想定よりも幾らか限定的であったようにも見受けられ、選挙前に「トランプ・トレード」が一定程度織り込まれていたことが伺えます。
ただし一方で、共和党のスウィープ(大統領・上下院選全てでの勝利)はどちらかと言えばサプライズであり、「トランプ・トレード」は今後数日間続く可能性があるとみています。政治的な展開としては財政刺激が予想され、長期債利回りにはプレッシャーになるとみています。さらに、貿易や移民政策についても、インフレ圧力となる可能性があるとされています。その結果、米連邦準備制度理事会(FRB)にとっては、2025年中の利下げ余地が限定されることとなるかもしれません。
米国債利回りに関して言えば、引き続きイールドカーブのスティープ化に備えたポジションを選好し、30年国債のショートを選好しています。30年債利回りは年末までに4.75%から5.00%に達する可能性があるとみています。
FRBは先週の会合で25bpsの利下げを実施し、12月にあと1回の利下げを実施する可能性があるとみています。ただしその後FRBは据え置きモードに入るとみており、2025年の政策軌道はいずれの方向にも、よりバランスの取れたものとなりそうです。もちろん、仮に米国経済がいずれかの時点で減速した場合、FRBには追加利下げの余地がありますが、現時点では成長見通しは堅調さを維持しています。
一方で、仮に貿易や移民、財政政策が結果としてインフレ圧力を加速させる展開となれば、FRBは、(次期大統領の抗議が予想されるものの)来年後半にも利上げを余儀なくされる可能性があるでしょう。結局のところ、今回の選挙結果から言えることは、労働者は物価上昇を嫌うということです。
その点では、トランプ氏がFRBの独立性を脅かすことへの警戒はそれほど抱いていません。トランプ氏が短期金利や住宅ローン金利の低下を望むであろうことは明らかですが、過去数年間のインフレの経験を繰り返さないことというのが、包括的には優先事項となるでしょう。
次期トランプ政権に関しては、当初は移民政策に注力することになるとみています。米国外から来た、犯罪歴のある人たちについては国外追放となる可能性があるでしょう。しかし、国境の南側において、米国が即座に、かつ容易に数百万の移民を送り返すことが出来るかどうかは定かではありません。結果としては米国は、人々を受け入れるようメキシコなどの国と連携する必要があり、新政権にとっては他国との友好関係も必要になってくるでしょう。
関税に関しては、まずは中国に対する行動が予想されます。しかし、より広範な地域での関税については、むしろそれぞれの貿易相手国との交渉手段になるとみています。一部セクターの一部の製品に対しては確実に関税が適用されるとみられますが、中国に対する立ち位置という意味で、米国は欧州を味方につけておきたいであろうと思われ、米消費者にとっての痛いコスト増につながる貿易戦争も回避したいであろうと思われます。
ただし一方で、米国の貿易政策における方向性を踏まえれば、米ドルは上昇傾向になりやすいとみています。また、米国経済も力強く進展し、成長における米国例外主義を裏付ける根拠が相次いで確認されている中、米ドルは、とりわけユーロなどの通貨に対して上昇する余地があるとみています。欧州中央銀行(ECB)が金融緩和を加速させるとみられている一方で、FRBが反対方向に向かおうとしていることを踏まえれば、尚更です。
欧州での先週の話題の中心はドイツ連立政権の事実上の崩壊で、来年1-3月期後半にも総選挙が実施される可能性が浮上したとみています。ドイツの成長及び政治的状況は引き続き厳しく、政権交代や、「危機」であるとの宣言こそが、より広範な財政面での支持を確保するための起爆剤になるとの議論もあるようです。
トランプ氏がホワイトハウスに復帰するというきっかけもその追い風になる可能性があり、米国の北大西洋条約機構(NATO)脱退に関連した脅威や、ウクライナでの和平を求める声が、EUに軍事費増大を余儀なくさせる圧力となるかもしれません。とは言いながらも、米国の関税関連の協議は欧州経済見通しに重石となり、そのことが、12月もしくは来年1月の会合でECBが50bps利下げを示唆するきっかけになる可能性があるとみています。
このようなマクロ面での動向は、為替のパフォーマンスに影響をもたらすのみならず、欧州債券が米国債券をアウトパフォームする要因にもなる可能性があります。ただし欧州債券市場においても、EUの財政リスクの高まりを踏まえ、米国同様にイールドカーブがスティープ化する可能性があるとみています。
海峡を渡った英国でも、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)が25bpsの利下げを実施し、政策金利を4.75%としました。ここ最近のインフレ指標がBoEによる今回の決定の追い風となりましたが、この先数ヶ月間ではインフレが上昇に向かう可能性があるとみて警戒しています。すでに生産性の伸びが見られない経済において、賃金の伸びはインフレ圧力になる状況が続いていますし、公共部門の給与をインフレが凌駕している状態において、賃金の伸びが加速しつつあります。
先日発表された英国予算も、雇用主が雇用コスト増を転嫁することを許容したことでインフレを押し上げるとみられます。労働党による投資支出は成長の支えになるかもしれませんが、経済の特定の業種において需要を創出することとなれば、インフレ・リスクが伴うでしょう。
したがって、英国の利下げ見通しに関しては、BoEや多くの市場参加者よりもやや懐疑的な見方を維持しています。ただし、そのことが決して英ポンドの好材料になる訳でもないとみています。英国債はここ最近他の先進国国債をアンダーパフォームしており、利回りは「トラス・タントラム」時とそれほど変わらない水準となっています。利回りの上昇が借入コスト増につながる結果、悪循環となって、英国の債務持続性や信頼感の喪失に関連した懸念を引き起こしかねないとみています
2022年の経験を踏まえれば、その点において英国は他の国と比較してより脆弱な立ち位置にあるとみています。そのような点を踏まえれば、仮に英国債利回りが上昇を続ければ、それがいわゆる「炭鉱のカナリア」とも受け止められるかもしれません。
その他の市場に目を向けると、米選挙当日に先駆けて軟調となっていたエマージング市場(EM)は、選挙後に反発基調となりました。トランプ氏がホワイトハウスに返り咲くことや米ドル高基調は、多くのEM国にとって好材料ではありませんが、長期に亘るアンダーパフォーマンスを経て、多くの悪材料が既に価格に織り込まれたとみています。
一方で、先週末に掛けては中国の財政支援計画の詳細にも注目が集まりました。見かけ上の大きな数字はセンチメントを押し上げるかもしれませんが、民間消費により直接的に働きかける政策でない限り、中国経済の方向性をより大きく改善させることは難しいであろうとの見方を維持しています。
先週は、米大統領選の結果を受けてリスク資産が全般的に力強く上昇し、社債市場でもスプレッドが縮小しました。社債市場に関しては、他の多くの投資家がやや慎重な見方をする一方で、良好な需給面を踏まえて、比較的前向きな見方を維持してきたことはこれまでにも述べました。
米選挙に関連した不確実性が取り除かれた今、他の投資家の間では手元資金を投資に充てる動きが見られており、利回り低下が見られる中で方向感を持ったクレジット・リスクのロング・ポジションを削減する方針です。トランプ氏勝利によって規制緩和や成長促進がまず予想され、株価を押し上げる要因となっています。しかし、政策金利に関しては、多くの想定よりも「より長く、より高く」留まる環境下にいるということを投資家が思い起こすにつれ、このことがセンチメントの足かせになり始めるかもしれません。現時点においては、FRBが来年も利下げを続けるとの見方がありますが、市場の利下げ観測は後退しつつあり、株式投資家はまだその点を考慮し切れていない可能性があります。
一方で、仮に米国債残高が積み上がり続ける中で米長期国債利回りが上昇を続けた場合、海外からの需要がなければ、米国内の投資家が発行額を吸収していかなければなりません。その一部は手元資金によって賄われ、イールドカーブがスティープ化する中で、投資家にデュレーションを持つことに対してプレミアムが付与される形となるかもしれません。しかし、結果として(民間の資金調達コスト上昇を伴う)「クラウディング・アウト」現象につながるリスクもあり、その他資産クラスにとっても重石となる可能性があります。
先週は消化すべき材料に富んだ一週間となりましたが、この先数日間も考えを巡らす機会に事欠かない状態が続くでしょう。今週は、米消費者物価指数(CPI)の発表を控えていますが、今後も米国選挙の結果を踏まえた結論が、資産アロケーション変化の鍵を握るとともに、引き続き市場動向を左右する要因になるとみています。
おおまかに言えば、注視している多くの市場において、大きく上昇した局面では売却して利益を確定し、大幅な下落局面では押し目買いをすることを引き続き選好していきます。それ以外では、米国債のイールドカーブについてはベア・スティープ化、ユーロ圏のイールドカーブについてはブル・スティープ化を見込んでおり、円金利についてはショート・ポジションを選好します。
通貨に関しては、ユーロや英ポンドに対する米ドルへの選好を維持し、中期的にはユーロに対して日本円を前向きにみています。社債に関しては、依然としてロングとしていますが、上昇局面でエクスポージャーをやや削減しています。その他、EMにおいても投資機会はあるとみていますが、慎重に投資をすべきであると考えています。
とにもかくにも、先週はトランプ氏が対抗馬に(トランプ・)タワーのようにそびえ立った、歴史的な一週間として記憶に残ることでしょう。米国の民主主義はしっかりと生きており、民主党が今回の敗北から何らかの教訓を得ることが出来れば、次回の選挙ではより競争力を高めることになるでしょう。ただし、2028年までに米国、ひいては世界が、果たして今とどの程度異なるものとなっているのでしょうか・・・
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