株式投資家にとっての米国大統領選挙

Oct 17, 2024

米国の有権者が意思を表明すべき日が刻一刻と近づいてきました。株式市場や投資家が、今後についてどのように考えるべきかを解説します。

ポイント

  • どちらかの圧勝、または「ねじれ」となる可能性は現時点では五分五分です。
  • 後者となれば、今後の大幅な法改正は少なくなり、株式市場にとってはプラスとなる可能性があります。
  • 政治に対する見方をポートフォリオ運営に反映することは危険です。今後の政策に対応して産業や企業がどのように変化するかに基づいてポートフォリオを調整するほうが望ましいでしょう。

接戦

米国では11月初旬に大統領選挙が行われます。その結果として主に4つの可能性が考えられます。そのうち2つは、共和党または民主党が大統領職と議会を制して圧勝するシナリオです。他の2つは、どちらかの政党が大統領または議会多数派のどちらかを獲得するものの、両方を制することはできないシナリオです。 

本稿執筆時点の世論調査を見ると、いずれの候補者もリードしておらず、その差も誤差の範囲を出ていません。従って、4つのシナリオについてもそれぞれの確率に大きな差はみられません。どちらかが圧勝すれば、政権は議案を通す機会が得られるでしょう。逆に、ねじれとなった場合は、議論の余地のある法案の通過を困難にします。興味深いことは、4つの結果のうち2つが大統領と議会の支配権が分割されるシナリオだということです。選挙は接戦となっており、4つのシナリオの可能性はいずれも大きな差が無いため、これは事実上、穏健な法改正にとどまる確率が約50%であることを示唆しています。

このような結果となれば、株式市場に好意的に受け入れられる可能性が高いでしょう。投資家は、将来の企業利益を予想して株式価値を算定しますが、大きな変化がある場合には、将来の利益水準やタイミングの予測が複雑になります。ねじれとなる選挙結果であれば、法案は穏健なものとなり、圧勝よりも変化は少なくなります。投資家は将来の企業利益を自信を持って予測することができるはずです。

税金と関税はどうなるか

どちらの政党にも依然として圧勝の可能性があります。候補者やマニフェストには多くの違いがありますが、資本市場は、必然的に経済的な影響が大きい部分に焦点を当てることになるでしょう。これは以下の3つに分類することができます。

  • 法人税: 共和党は減税の延長を支持し、民主党は増税を支持します。増税があれば、米国企業の利益は5-6%減少する可能性があります。トランプ前大統領が引き下げた現行の法人税率は2025年に失効し、大統領選と議会の双方で共和党が圧勝しない限りは、延長される可能性は低いでしょう。法人税の引き上げは、企業収益の市場予想にはまだ織り込まれていないようです。
  • 関税: 共和党は広範な輸入関税を支持し、国内の供給サイドがこれに対応するまでの期間において、短期的な物価上昇をもたらします。関税政策に交渉の余地があるのか、あるいは、確定的な公約であるかは不明なため、結果を予測することは難しいでしょう。産業やサプライチェーンによっては大きな影響を受ける可能性があり、連邦準備制度理事会がインフレ率を目標の2%に引き下げようとする努力を困難なものにする可能性があります。たとえ選挙結果がねじれとなった場合であっても、共和党は大統領令を通じて関税政策を実行することができます。
  • 財政赤字: どちらの候補者も、財政赤字に対処するための方針を表明していません。これまでのところ、資本市場は継続的な債券発行を受け入れてきました。しかし、もし米国が金利コストを支払うために借り入れを行わなければならないほど支出が押し上げられれば、債務の持続可能性に対する市場の懸念は高まり、市場金利を押し上げることになります。これは、米国だけでなく、国際的にも企業の資金調達が圧迫される「クラウディング・アウト」につながり、欧米の低金利に対する市場の期待を考えると、ネガティブ・サプライズになります。

有権者だけが、自分たちが正しいと考えることを表明する機会を得ていることを認識する必要があります。株式市場や投資家は、何が起こりうるかを考えることしかできません。これは一つのリスクですが、投資家はそのリスクに対してどのように対応するかを選択することができます。

市場にとって、選挙は民主主義への定期的な投資と言えます。議論が巻き起こり、選挙結果については常に憶測が伴います。短期的には投資家の確信度に悪影響を及ぼす可能性がありますが、その一方で、選挙直後は政治情勢がはっきりする時期となります。政治情勢が明確になることと不確実性が低下することは、通常株式市場にとって前向きな原動力となります。しかし、2000年の大統領選に見られたような結果に対する混乱があれば、このような原動力は弱まり、遅れる可能性があります。

選挙結果とポートフォリオ運営

投資家の中には、起こりそうな結果に対する見通しを示し、世論調査や政治的懸念に基づいてポートフォリオを変更したいという誘惑にかられる人もいるかもしれません。対照的に私たち自身は、選挙結果を予測する上での優位性はないと認識しています。私たちは企業に投資するのであり、政治評論家ではないのです。したがって、リスクを政治に配分することはリスク・バジェットの無駄使いになると考えています。選挙イベントは、投資機会として活用するのではなく、ポートフォリオ全体の中で分散させるべきリスクとして扱っています。

その結果、私たちは複数のセクターにわたってバランスのとれたポートフォリオを維持しており、アクティブ・リスクの大部分は銘柄固有に由来するものとなっています。これはファンダメンタル分析主導のボトムアップ・アプローチと一致しています。実施された政策が、企業の成長性や本質的な競争優位性の変化につながるのであれば、それに応じて私たちは企業リサーチを調整し、必要であれば、企業のファンダメンタルズに対する評価も変更します。例えば、地政学的緊張の高まりと関税の脅威によって、多くの企業が材料調達先を本拠地に近い地域に変更しました。これは、私たちの企業評価の一項目であるエンドマーケットの成長性への評価に反映されています。国際取引の影響を受けやすい企業へのエクスポージャーを減らす一方で、ファクトリー・オートメーションの恩恵を受けられる企業を選好しています。 

選挙は必ずしも悪いニュースではありません

選挙はある程度の不確実性を生み出すものの、民主主義に対する継続的な投資でもあります。候補者が、有権者に貢献すると考える政策を通じて競争することは、民主主義の特徴と言えます。長期的に見れば、選挙が投資行動を決定した経験はあまりありません。企業の価値創造は、経済のサイクル、戦争、疫病を乗り越えてほとんど中断されることなく続いてきました。もし投資家が、米国選挙の短期的な結果に賭けて投機したいのであれば、ポートフォリオを通じてではなく、市場に直接賭ける方が効率的であるように思われます。 

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