彼らはペットを食べる!

Sep 17, 2024

ブリトーではなくプリトー!?

コメント要約

  • 発表された米経済指標は今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での50bps利下げの期待をやや削ぐ内容をなりました。
  • 経済指標の減速トレンドを背景とした今後数ヶ月で大幅な利下げ観測には、引き続き懐疑的な見方をしています。
  • 欧州では、欧州中央銀行(ECB)が25bpsの利下げを実施し、中銀預金金利を3.50%としました。今後さらなる利下げが予想されます。
  • 日銀高官からは将来の金融引き締めを示唆する発言が見られました。

先週の市場では、発表された米経済指標が今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で50bps利下げの期待をやや削ぐ内容であったにも拘わらず、米国債市場が比較的底堅く推移しました。前週末に発表された米雇用統計では、前月に上昇していた失業率がやや低下しました。雇用者数も概ね健全な増加を見せているものの、これまでの数字の下方修正によってやや弱含んだ印象を与えています。

一方で、週次の失業保険申請件数は、現時点において米労働市場が急減速しているとの懸念を与えるような内容とは特段なっていません。その他、先週発表された米消費者物価指数(CPI)では、エネルギー価格の低下を背景に総合CPIは鈍化したものの、コアCPIは前年同月比3.2%上昇と、前月から横ばいとなりました。

これらの経済指標の内容を踏まえ、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は今週の会合で25bpsの利下げを決定するとみており、ドットチャートでは2024年末までに累計75bpsの利下げを想定する可能性が高いとみています。パウエル氏は、利下げのペースについて、今後の経済指標を踏まえた上で加速させることも鈍化させることも可能であるということを強調する可能性が高いとみています。

その点において、アトランタ連銀GDPナウは足元で2.5%に上昇しており、経済指標がかなりの減速トレンドにあることから、今後数ヶ月で大幅な利下げが必要になるとの一部意見には、引き続き懐疑的な見方をしています。そのような見方が適切であった場合、足元の市場には目先の金融緩和が過度に織り込まれているとみており、2024年12月限の3ヶ月金利先物を通して、米金利のショート・ポジションを維持しています。

欧州では、欧州中央銀行(ECB)が25bpsの利下げを実施し、中銀預金金利を3.50%としました。ユーロ圏のインフレ率が政策目標の2%に近づく中、今後数四半期でさらなる利下げが予想されます。しかし、欧州全体で経済指標は活気を欠いているものの、ユーロ圏の失業率は6.4%と、統計を取り始めた過去25年間で最も低い水準にあります。

労働市場のスラック不足は、賃金の上振れリスクとなり得るため、利下げの障壁となるでしょう。これまでにも述べてきた通り、パンデミック以降に労働供給が変化し、労働市場における構造的な逼迫につながっている側面があるとみています。とりわけ西側諸国の労働者は、仕事よりもレジャーに自らの時間を費やすことを好むようになったためです。またそのような要因によって、生産性の伸びが抑制されることで、経済成長もこの先緩やかな伸びに留まることを示唆していると捉えています。

ユーロ圏のやや弱い中長期的な見通しに対峙するため、マリオ・ドラギ氏が欧州委員会に提出したレポートでは、同地域を好転させるために取り組まなければならない特定の課題が指摘されました。具体的にはイノベーション・ギャップを挙げていますが、これが欧州企業がアイデアを商業化することの妨げになってきたとしています。

その他にEUの競争力にとっての課題、すなわち安全保障の強化とエネルギー依存低下の必要性、経済を非炭素化するために投資が不可欠であること、といったことが書かれています。これらの課題それぞれに取り組むために、ドラギ氏は、EUレベルで革新的な規模の積極的な財政投資を呼びかけました。

ドラギ氏のアイデアに対する、欧州主要国の最初の反応は、比較的冷静でした。計画は明らかに野心的であり、とりわけフランスやドイツが国内で深刻な課題に直面しているタイミングで、さらにポピュリスト政党が既成政党に代わって支持を広げている中、域内で財政統合の方向にシフトする意欲は限定されているように見受けられます。

しかし、これらのアイデア全てに対して完全に否定的な姿勢を示すことは賢明ではないとみており、仮にドラギ氏の意見の一部でも実行に移されれば、大幅な財政刺激を示唆し、2025年に掛けての経済見通しに追い風となるほか、ECBによる、より積極的な金融緩和の必要性を低下させる効果があるとみています。

また先週は、ドイツ政府がコメルツ銀行株式の4.5%の持分をイタリアのウニクレディトに売却したとの報道も興味深く受け止めました。その結果、ウニクレディトは同銀行株の9%を保有することとなり、最終的には同銀行の買収を検討しているとも言われています。EU内におけるクロスボーダー取引は過去においてまれであり、そのような景観が今後変化していく可能性があることを予想させます。

フランスのマクロン大統領は、このような取引がフランスであった場合には、その妨げになることはないと発言しました。したがって、仮にウニクレディトの野望が達成されれば、欧州銀行業界における統合の波も予想されます。現状欧州においては、株価が低迷している金融機関が多く、株価が資産価値の0.3倍程度で取引されているような金融機関も存在していることを踏まえれば、尚更です。

実際、過去複数年に亘って経営に苦戦してきたコメルツ銀行について、今回のような取引が進展することは、ドイツ側の視点から見ても国益にかなったものであるように思えます。さらに、ドラギ・レポートにおける提案の中にあった、クリーン・エネルギーや対外的な安全保障への投資という観点では、これらは結果的に他の欧州の国と比較してドイツにより多くの恩恵をもたらすものであるでしょう。

そのことが十分に理解されれば、ドイツにおいて根強いEU基金の使途に対する懐疑的な見方も、徐々に薄れていく可能性があるでしょう。ドイツの連邦憲法裁判所が障壁となる可能性はあるものの、過去の危機時には、例外が認められたことも事実です。そのような点から言えば、ドイツは既に国境近辺での安全保障危機や気候危機に直面しており、広範な影響をもたらしています。この先経済危機や政治的危機がこれに加わる可能性があることを踏まえれば、今こそ行動を起こすべきではないでしょうか。

他の先進国市場における金融緩和の議論とは対照的に、日本では先週も、経済が日銀の予測に沿った内容で進展していく限り、将来の金融引き締めを示唆する発言が日銀高官から見られました。今週の会合での政策転換は予想しておらず、政策転換はこの先10月もしくは来年1月に、同中銀が経済見通しを発表する四半期ごとの会合で実施される可能性が高いとみています。

短期的には、日本における注目はむしろ政治面であり、岸田首相の後任が選出される自民党の総裁選に注目が集まるとみています。多数の候補者が出馬している状況ですが、経済政策において明確な違いはほとんどないように見受けられることから、現時点において金融市場への影響は限定的とみられます。

一方で、日本国内では米不足が発生しており、主食である米の価格が上昇しています。このことが今後、CPIの統計に影響をもたらす可能性があり、CPIは上振れるリスクが残っているとみています。

過去数週間は景気減速への警戒感を背景にクレジット債のスプレッドは拡大したものの、月後半に掛けては、市場環境も改善に向かうと期待しています。日本では、経済指標及び政策見通しの方向性が反対方向であるにも拘わらず、利回り低下が続く可能性は低いとみています。

また米国では、FOMCの結果が、市場に織り込まれた過度な利下げ見通しの巻き戻しにつながる可能性があるとみています。社債市場では、欧州銀行セクターの再編・統合の動きが、取引に対する国家的な反対圧力が弱まると予想される中で、同セクターにとっての追い風になると予想しています。

今後の見通し

今週は、FRBの会合が最も注目を集めるイベントとなるでしょう。その後月末に掛けては、経済指標の発表も静かになり、社債の新規発行も全般的に落ち着くとみています。株式市場が安定し、ボラティリティが低下すれば、社債スプレッドは月初の拡大分を取り戻す動きになるとみており、CDS指数のロールが近々予定されていることも、スプレッドの縮小を促す要因になり得るとみています。

米大統領選が迫り、依然レースが拮抗している中、目先は米国政治がニュースの中心となるでしょう。先週の候補者討論会では、ハリス氏が比較的良好なパフォーマンスを見せました。しかし、依然として投票までには時間があるほか、ペンシルベニア州出身の人気歌手テイラー・スウィフトがハリス氏支持を表明したことは話題となったものの、彼女のファン層(かつ投票権を持つ層)は元来民主党寄りであった可能性が高いと言えるでしょう。

大統領選の結果は、少数の激戦州における、投票先を未だ決めていないほんの一部の有権者に左右されると言えます。全米を対象とした世論調査ではトランプ氏が支持率でハリス氏を追う展開となっているものの、これらの激戦州においては、トランプ氏が僅差で優勢とも言われています。

ある意味では、トランプ氏最大の敵は自分自身であるとも言えそうです。討論会における同氏の「移民がペットを食べている」という発言は紛れもなく「weird(奇妙)」で、次はどんな発言が飛び出すものかと身構えてしまいます。ダックスフント(英語でsausage dog)ではなく、ソーセージ(sausage)であれば、多くの人が好んで食べると思われますが。

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