中小型株、復活か?

Oct 10, 2024

投資に教義のような体系的なものはありません。頻繁に覆されますし、運用業界がいくら試みようとも、科学ではないため適用できる規則はそれほどないからです。しかし、仮説や格言はありますし、「単なる例外」と否定できないこともあるのです。

そういった類いの一つとして長年あるものが小型株プレミアムです。1980年代に、最初に提唱したのはロルフ・バンズ氏でした。40年以上、NY証券取引所の小型株のリスク調整後リターンは大型株よりもかなり高かったのですが、その理由は市場ベータでは説明できませんでした。しかし、全ての新説がそうであるように、これも時を経てよく知られる説となりました。それにつれてこの効果に対する実績や確信は弱まり、今では非流動性プレミアムや1月効果のアノマリーで説明できるとの見方が広がりました。

一方、ここ最近では、徐々に先進国市場の小型株に対する関心が高まっているように感じられます。世界中の中小型株投資家にとっては、米国のテクノロジー企業が主導する大型株と超大型株が驚異的な高値を更新し続けている状況で、絶対リターン、相対リターンで厳しい時期が続いてきました。特に米国の小型株は厳しいもので、同業種の大型株に対して記録的な割安水準にありました。このため中小型株は、再び大型株を長期でアウトパフォームすることができるのか疑問視されるまでとなりました。

この疑問に答えるには、株価のパフォーマンスだけでなく、基盤となる事業そのものに影響を与える無数の要因を検討することが必要です。これは、小型株のサイズプレミアムが存在するのかを確かめることにもつながります。

中小型株は、堅固な大型株と比べた場合のリスク特性を考慮すると、より高いプレミアムが求められる傾向があります。例えば、流動性リスク、信用リスク(株式と負債の両コストが高くなる傾向がある)、インフレリスク(企業規模が小さいほど、経費削減や顧客転嫁が難しい)があります。また、中小型株ほど負債を多く抱える傾向があり、資金調達手法も限られ、借入期間も短いため、景気後退によるリスクも高いと言えます。

しかし、中小型株にもメリットがあります。一般的には利益成長率が高いことです。元が小規模というだけでなく、しばしば業界の革新者になることもあり、非常に迅速にニッチな事業分野で独占や寡占企業となりえます。また、事業形態が、コングロマリット企業よりもシンプルで、国内に特化した企業が多いため為替リスクが小さく、リターンの観点から見た場合には、銘柄固有の要因に依存する傾向があります。最後に、平均では中小型株企業の負債は多いですが、よく分析してみると、高い負債水準は収益性の低い企業、低クオリティの企業に集中していることが分かります1

こうした要因を考慮すると、中小型株の相対パフォーマンスや、長期的なリターンの高さを説明することができます。学術研究ではバンズ氏の分析が再評価され、さらに企業サイズがアウトパフォーム要因として作用している可能性が高いことを示す興味深い研究結果も出てきています。しかしその一方で、2つの決定要素に強く注意を払うべきでしょう。1つは銘柄のクオリティ・ファクター、もう1つは金利サイクルです。

ではクオリティ・ファクターからみていきましょう。「Size Matters, If You Control your Junk」2という研究論文の執筆者は、質の高い企業(収益が安定してバランスシートが健全な企業)を選別し、収益率が平均して低く、破産寸前や、流動性が非常に低い「ジャンク」企業を取り除くと、企業サイズのファクターは、幅広い時期、産業、地域において相応の規模で安定したリターンプレミアムとなると述べています。次に金利サイクルですが、2022年の論文3で、企業サイズ・ファクターは金融引き締めの期間に消失し、金融緩和の期間に現れるとされています。その理由として、先述した中小型株の特性、すなわち、1)株式市場における流動性効果、2)企業レベル(バランスシート)の流動性効果、3)与信へのアクセスが容易になる効果と関連している可能性が高いと主張しています。 

ボトムアップ型・ファンダメンタル投資家として、私たちは企業の質に焦点を当てています。したがって、こうした効果を強く主張したり保証するような学術研究を頼りにするわけではありません。その代わりに、投資哲学としているのは、事業投資が高い資本収益を生み、再投資が行なわれる質の高い企業は、長期に渡り株主価値を提供し、地政学的・経済的混乱に直面した場合にも抵抗力を発揮するというものです。

先述の学術論文も、ある程度は私たちの投資経験と一致します。時価総額が低いほど、質が高い企業のパフォーマンスがいいことをみてきました。しかし、投資目的のためにこの研究を参照したからといって、投資プロセスにも適用するわけではありません。

特定の資産クラスが市場トレンドとなる時期を予測しても、無益なことでしょう。もし、小型株のパフォーマンスが、金利サイクルのピーク時だけでなく、そのサイクルの速度とも相関関係があれば(一部の研究は、利上げペースが早いほど、中小型株の相対パフォーマンスの悪化が大きくなることを示唆しています)、中小型株投資家にとっての逆風は、和らぐかもしれません。

ディスインフレが続き、中央銀行の利下げが実際に継続すれば、中小型株の相対バリュエーションは割安ですから、投資価値があると主張できるかもしれません。しかし、中小型株のパフォーマンスについて注意すべき点がもう一つあります。それは期間です。先述した研究は、10年以上の期間を対象としたプレミアムについて触れています。投資家が中小型株のプレミアムを利用しようとする場合には、これは留意すべき重要な点です。 

中小型株への興味深い問いは、“when“ではなく”how” だと思われます。中小型株特有の個別事情があるためです。例えば、小型株に対するアナリストのカバーは、特に欧州でMiFID II規制が導入されて以降、大企業に比べて貧弱なものとなりました。これによって、中小型株には有名な大企業に対する分析では得られないアクティブ運用の投資機会が生まれました。そして、この投資機会は、企業経営者とのエンゲージメントを通じてさらに広がります。小型株市場の情報効率性は相対的に低いですが、経営者との関係を深めることで、事業をより良く調査することができます。それだけはなく、そもそも小型株市場では企業へのアクセスが容易であるため、潜在的な投資機会をみつけやすいのです。

実際の生活においても、グローバル企業のCEOよりも地域の中小企業の社長と会う機会の方が多いと思いますが、ポートフォリオ・マネジャーにとっても中小型企業の経営陣に会う機会は頻繁にあります。また、中小型株ユニバースは、ポートフォリオ・マネジャーにとって、投資対象銘柄の質を維持しつつ超過収益創出の機会を得る上でほど良い規模です。そして特に米国以外で顕著ですが、サイズ・プレミアムだけではなく、アクティブ運用による収益獲得の機会を見つけやすいことも確認できます。こうしたことは、欧州を含む世界の中小型株は、引き続きファンダメンタル運用を行うポートフォリオ・マネジャーが活躍できる分野であることを示唆しているかもしれません。

絶対的なものはありませんが、知れば知るほど、中小型株は、多様性と投資妙味のあるユニバースだと分かります。長期的投資の観点で、最も質の高い中小型銘柄を保有し続けると、同業の大企業よりもボラティリティが高くなることが度々あるものの、投資家に利益をもたらすことが示唆されています。運用経験を通じて思うことは、正しい投資哲学と投資プロセスを用いれば、中小型株は、好奇心を刺激し、多様性のある銘柄を提供する資産クラスだということです。今までも、これからも、他の資産クラスとは、ひと味違う運用を味わせてくれることでしょう。

1 RBC Global Asset Management, Bloomberg, 2024.
2 Asness, Cliff S. and Frazzini, Andrea and Israel, Ronen and Moskowitz, Tobias J. and Moskowitz, Tobias J. and Pedersen, Lasse Heje, Size Matters, If You Control Your Junk (January 22, 2015).
3 Simpson, Marc W. and Grossmann, Axel, The Resurrected Size Effect Still Sleeps in the (Monetary) Winter (September 24, 2022).

本資料はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド(以下、当社)が情報の提供のみを目的として作成したものであり、特定の投資商品の取引や資産運用サービスの提供の勧誘又は推奨を目的とするものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。本資料は信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、当社がその正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、その誤謬についての責任を負うものではありません。本資料に記載された内容は本資料作成時点のものであり、今後予告なく変更される可能性があります。また、過去の実績は将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。なお、当社の書面による事前の許可なく、本資料の全部又は一部を複製、転用、配布することはご遠慮ください。当社との金融商品取引契約の締結にあたっては、下記の投資リスク及びご負担いただく手数料等について契約締結前交付書面等を十分にお読みいただきご確認の上、お客様ご自身でご判断ください。

 

投資リスク
当社との投資一任契約に基づく運用においては、原則、外国籍投資信託を通じて、主に海外の公社債、株式、通貨等の値動きのある資産に投資しますので、基準価額が変動します。従って、契約資産は保証されるものではなく、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は全てお客様に帰属します。主なリスクとして、価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスク、カントリーリスク等があります。また、デリバティブ取引等が用いられる場合、デリバティブ取引等の額が委託保証金等の額を上回る元本超過損が生じることがあります。なお、投資リスクは上記に限定されるものではありません。

 

手数料等 
当社の提供する投資一任業に関してご負担いただく主な手数料や費用等は以下の通りです。手数料・費用等は契約内容や運用状況等により変動しますので、下記料率を上回る、又は下回る場合があります。最終的な料率や計算方法等は、お客様との個別協議により別途定めることになります。

 

Fee table

 

なお、上記には、投資一任契約に係る投資顧問報酬、外国籍投資信託に対する運用報酬が含まれます。この他、管理報酬その他信託事務に関する費用等が投資先外国籍投資信託において発生しますが、契約内容や運用状況等により変動しますので、その料率ならびに上限を表示することができません。