利下げは『Definitely Maybe』(絶対多分)

Sep 02, 2024

華々しい復活!

コメント要約

  • 米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げサイクルを開始することはほぼ確実であるとみられているものの、その利下げ幅は今後発表される経済指標次第となっています。
  • 雇用の縮小や失業率のさらなる上昇が仮に今回確認されたならば、FRBがより高い緊急性を持って利下げを行うきっかけとなり得るとみられます。
  • 英国の予算案に関しては、リーブス財務相が財政持続性への道筋にコミットする中、増税や歳出削減を示唆する発言が伝わっています。
  • ユーロ圏では、経済見通しを改善させ、多くの戦略的イニシアチブを実行したりするために財政刺激策を打ち出すという壮大な計画を支持するという動きが見られています。

先週のグローバル金融市場は、夏休みが終わりを迎えようとする中、比較的静かな動きとなりました。8月を振り返って見ると、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げサイクルを開始するとの期待感からグローバルに金利が低下しました。ジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長の発言を踏まえれば、9月の利下げ開始はほぼ確実であるとみられます。

いまだ回答のない問いとしては、その最初の利下げが25bpsと50bpsのどちらになるのかであり、パウエル氏自身が大幅利下げの可能性を排除してはいない中、今後数週間で発表される経済指標の動向がその鍵を握っていると言えるでしょう。

ここ最近の失業率上昇を受け、パウエル氏は、景気のソフト・ランディングを追求するため、労働需要のさらなる減速はもはや望ましくないとの考えを強調しています。つまり、今週発表される米雇用統計の内容に投資家の注目がより一層集まることを意味しています。

今回の雇用統計に関しては、比較的堅調な数字を予想しており、前月の失業率の上昇は、7月のハリケーンによる影響を一部受けたものであったと捉えています。ここ数週間の失業保険申請件数の傾向はそのような見方を裏付ける内容で、その他の労働市場関連指標と同様に比較的落ち着いた数字となっています。

しかし、雇用統計はある種「統計の宝くじ」のようであり、その後改訂されることも頻繁にあります。そのような点を踏まえると、雇用の縮小や失業率のさらなる上昇が仮に今回確認されたならば、FRBがより高い緊急性を持って利下げを行うきっかけとなり得るとみられます。しかし、その可能性自体は排除出来ないとは言え、確率としては比較的低いと考えています。

一方で、金融環境を測る広範な指標は比較的緩和した状態を示しています。背景には、利回りの低下やスプレッドの縮小、年初来での株式市場の健全なパフォーマンスが挙げられます。経済活動はこれまでの速いペースから緩やかに落ち着いてきています。

しかしこれは常に予想されてきた展開です。全般的に見れば、米国経済はここ最近のFRBの予測と概ね足並みを揃える格好で進展しているように見受けられます。またその場合、最も直近のFOMC会合においてくみ取れる見方が、いまだ有効であるように思えます。

そのような点を踏まえれば、9月の会合での25bpsの利下げ、そしてその後12月及び来年1-3月期にそれぞれ同等の利下げを予想することが賢明であるとの考えを維持しています。そのような利下げ軌道は、足元で市場が織り込む軌道と比べると緩和度合いがかなり小さく、金利デュレーションに対してショート・バイアスを選好する姿勢を維持する背景となっています。

英国では、スターマー新政権が予算に関連した悪材料を機を見計らって一気に公表したと言え、前保守党政権時代に組まれた現予算に220億英ポンドもの財源不足があったと指摘しました。この報道を受けて英国債はアンダーパフォームしましたが、今年後半に発表される増税や歳出削減を示唆する発言が伝わると、その動きは一旦落ち着きました。

労働党政権の姿勢は、ストライキを行う公的セクターの労働者に報いるために90億英ポンドを追加で用意することにある程度現れており、国全体が「仕事に戻る」ことを期待していると言えるでしょう。一方で、ここ最近の進展を背景に、労働組合は自らの力に自信を深めており、組合によってストなどの全体的な行動を続けたいという組合側の意欲は強まっています。

とは言いながらも、英国に財政的な余地がそれほどないことは長きに亘って認識されていたことであり、この先の予算ではキャピタル・ゲイン課税や相続税が引き上げられることになると予想されます。また、年金拠出額に対する所得税還付に関連した見直しや、私立学校の学費に対するVAT(付加価値税)免除がなくなるなどの変更も予想されます。

結果として、財政持続性への道筋にコミットしたリーブス財務相の姿勢は市場に比較的ポジティブに受け止められましたが、組合員への賃金コストが加速し、公共料金も再び上昇へと向かう中、この先数ヶ月間では、インフレ率の上昇がイングランド銀行(英中央銀行、BoE)の追加利下げにとってのハードルになり兼ねないとみています。

そんな中フランスでは、マクロン大統領が左派の首相候補であったリュシー・カステ氏を首相として認めないとしたことに対して、(左翼「不服従のフランス(LFI)」率いる)メランション氏や左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」は反発し、9月7日に街頭での抗議活動を呼びかけました。今のところ、左派連合は団結力を維持しており、マクロン氏自身が推す首相候補を支援するよう、中道寄りの政治家を説得したいマクロン氏はやや孤立しているように見受けられます。

現時点において妥協案を見出せるかどうかは定かではなく、夏が終わりを迎えようとする中、この先数週間で政治的緊張が高まることも想定されます。このような展開はフランス国債のスプレッド拡大につながると予想しており、フランス国債についてはスペイン国債を上回るスプレッド水準となる可能性もあると考えてきました。

しかし、結果として左派政党をなだめるために大幅な財政緩和がもたらされ、フランスが過剰赤字手続き(EDP)の対象となることでEUと衝突しかねない事態となったり、もしくは現時点では非常に可能性は低いものの、マクロン氏が辞職するなどの動きがない限りは、フランス国債の動きは比較的抑制される可能性があるとみています。

その他ユーロ圏では、目新しい材料はそれほどありませんでした。ドイツ経済は引き続きユーロ圏の他の国をアンダーパフォームし、4-6月期に再びマイナス成長となりました。また、ドイツのインフレ率が予想を下回ったことで、ユーロ圏のインフレ率も幾らか下振れしました。高い燃料コストが多くのセクターの生産者にとって足かせとなる中、ドイツの製造業は弱い状態が続いています。

ユーロ圏のその他の国は相対的には良い状態ですが、全般的に停滞感が漂っていることは事実であり、そのために経済見通しを改善させたり、多くの戦略的イニシアチブを実行したりするために財政刺激策を打ち出すという壮大な計画を、マリオ・ドラギ氏や一部のEU当局者が支持するという動きが見られています。

その点に関連して言えば、EUにとっては日増しに不確実性を増す世界の中で、外的脅威に対応するための防衛費を確保するため、支出を拡大させなければいけないことは明らかです。また、エネルギー関連やネット・ゼロ目標達成に向けた大規模な投資も必要となっています。

しかし、ポピュリズムが台頭し、国内の優先順位や国益が議論の中心となる中、EUの主要国が、EUに支出におけるさらなる権限を与える意向があるかどうかは議論の余地があるでしょう。この先、支出が大幅に拡大するとは考えているものの、その規模について、またそれがどの程度ユーロ圏の利下げの必要性を相殺するのかどうかは、現時点では明確ではありません。

ここ数日間では、社債市場においてタイミングを図った新規発行が複数見られ、社債市場の活動がやや活発化しました。米国のレイバーデーの祝日を経た今週後半には、季節的に発行額が増える期間が控えていますので、その前に発行する動きがありました。

全般的に見れば、発行額はやや控えめとなる可能性があるとみているほか、多くの投資家が現金を投資に回す動きが見られる中で債券戦略に資金が流入していることを踏まえると、発行による一時的なスプレッド拡大圧力があったとしても短命に終わるとみています。

さらに、リセッション・リスクが抑制されている限りは、全体的なスプレッド水準はじわじわと縮小を続ける可能性もあるとみています。過去と比較すると、社債のバリュエーションは幾らか割高にも見えますが、金利スワップが継続的に国債をアウトパフォームしている状況に見られるように、国債が構造的に割安になっているという状況を見逃すべきではありません。

為替相場では、ここ数週間で米ドルがアンダーパフォーム基調にあり、これを踏まえて米ドルのアンダーウェイト・バイアスを解消しました。米利下げ関連の見方も米ドル安に一部影響しているとみており、利下げ期待が行き過ぎであるとの見方も踏まえ、ユーロに対して米ドルをロングするポジションに移行しました。現時点では、ユーロが1ユーロ=1.115米ドルから、1.15米ドルに向かうよりも、1.08米ドル近辺に下落する可能性の方が高いとみています。

また日本円に関して、日銀が今年終わりまでは様子見姿勢を取るとみられる中、今の時点では円高が一巡したと考えています。とは言いながらも、引き続き円については構造的な割安感があることから、再び1米ドル=150円近辺を付ければロング・ポジションを取るつもりです。さらに、一部の高利回りEM通貨についても、ブラジル・レアルはコロンビア・ペソなどに対して割安感があるとみているほか、メキシコ・ペソについても、政治的懸念によるここ最近のアンダーパフォーマンスは行き過ぎであるとの見方から、米ドルに対して19.50を付けた時点で、より前向きな見方に移行しました。

先週は、利回りやスプレッドの動きがパフォーマンスに与えた影響は比較的抑えられ、リターンも方向感を欠いた動きとなりました。通貨戦略についてはここ最近パフォーマンスにプラスに貢献しており、前述の通り、足元では広範な米ドルのショート・バイアスから、トータルでは米ドルをロングするポジションへとやや大きくシフトしました。

今後の見通し

今週は、週初に米国ではレイバーデーの祝日があることから、ややのんびりとしたスタートになりそうです。その後は活気を取り戻し、市場参加者の注目は米国の雇用統計へと集まっていくでしょう。現時点においては米国経済に対する相対的に前向きな見方を維持するものの、経済活動のより急激な減速を暗示する兆候がないかどうか、慎重に見守っていきます。

その点では、夏の旅行シーズンもピークが過ぎ、航空運賃が下落に転じる中、旅行需要に幾らかの軟化が見られています。またコロナ禍によりここ数年好調であった住宅リフォームの需要にもやや軟調さが見られ始めています。

しかし、セクターごとに相対的な強弱感は常に存在し、総合的に判断すれば、米国経済がすぐに大幅に減速することは考えづらいでしょう。

実際、ここ最近の金利低下は不動産市場に命を吹き込む役割を果たしたかも知れず、より広範に言えば、過去数ヶ月間の金融環境の緩和も、成長にとって活力を与えた可能性がありそうです。今年1-3月期には、2023年12月のFOMCをきっかけとした金融環境の緩和によってそのような傾向が確認されたためです。

さて、英国の人気バンドOasisが再結成を発表しながらも、8月は決して心が安らぐ場所(Oasis)であったとは言えませんが、9月は、グローバルのマクロ投資環境にとって極めて重要な月になるとみています。9月18日には、パウエル氏がまるで『Champagne Supernova』(シャンパンの超新星)のような50bps利下げを実施しなかったとしても、投資家が『Look Back in Anger』(怒って振り返る)ようなことがないよう祈るばかりです。

リスク資産は『Roll With It』(流れに乗る)ことが出来るとみており、米国の成長見通しが以前ほどの『Supersonic』(超高速スピード)ではなかったとしても、ソフト・ランディングを達成することで、FRB議長は中央銀行総裁の間でもまるで、『Rock ‘n’ Roll Star』(ロック・スター)のようにもてはやされるかも知れません。リスク資産の強気相場が『Live Forever』(永遠に続く)ことはなかったとしても、現時点では価格が『(Wonder)wall』(不安の壁)を登ることは可能でしょう。

『Half The World Away』(地球半分くらい離れた)英国では、リーブス財務相による『Masterplan』(基本計画)が財政規律を求める市場の声に『Acquiesce』(渋々従う)ことを目指しながらも、『Cigarettes and Alcohol』(タバコやお酒)への増税はなさそうです。ただし、財政懸念が『Slide Away』(払拭される)ことはなさそうで、リーブス氏が今後、『Whatever』(必要なことは何でも)する準備があることを示し、『Little By Little』(少しずつ)、市場の信頼を獲得していくことを願っています。

予算案の発表は数ヶ月先ですが、彼女がプライベート・エクイティ会社に『Stop Crying Your Heart Out』(大泣きすることを止めなさい)」と言えるほどの強い意志で、キャリード・インタレスト(成功報酬)の扱い変更を取り止めないかどうかは興味深いところです。仮にそうすれば、『She’s Electric』(彼女は電撃的だ)と『Some Might Say』(誰かが言うかもしれない)のですが、究極的には、『Morning Glory』(朝の勝利、朝顔)への道を目指すのであれば、成長を加速させる生産性向上時代の幕開けが必要と言えるでしょう。

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