ポリーナの視点:メキシコの変身術

May 22, 2024

アートは好きですか。自分のことを芸術通だとは思っていませんが、旅先で世界中のアートに触れるのを楽しんでいます。アートからその国の伝統や価値観、人材基盤について多くの情報を得ることができるからです。

メキシコシティはタイムアウト誌において文化面で世界最高の都市として選出されており、その素晴らしい芸術と豊かな歴史が一番の理由とされています。私は先月、大統領選挙前の国内の状況と経済回復の力強さについて理解を深め、メキシコ最大の国営石油会社の持続可能な債務ソリューションを議論するために、メキシコを訪れました。

今回はマイアミ経由でメキシコに向かいましたが、飛行時間わずか30分のメキシコシティ行きの3便の直行便すべてがオーバーブッキングだったことに驚きました。満席のレストランや大渋滞で賑わう活気あるメキシコシティを車で走っていると、隣国の米国経済の力強い成長が波及し同国でも楽観さが広がっていることを感じました。大統領選挙が6月初めに控え、政権交代に関する現地の人の見方は、かなり前向きなものでした。しかし、同国最大の国営石油会社の債務持続可能性に関する問題は未解決のままです。これは投資家にとって重要な点であり、同国のリスク資産のリスク・プレミアムがさらに上昇する理由でもあります。この問題には解決策があるはずなのですが、新政権による迅速な行動が必要になると考えています。

ブルーベイでは、特定の領域におけるファンダメンタルズの改善がバリュエーションに十分に反映されていないとの見方からメキシコの外貨建て債及び現地通貨建て債共に前向きな見方を持っています。私たちは、メキシコ新政権が、エネルギー部門を始めとして、同国のファンダメンタルズ改善に向けた政策を行うだろうと前向きに考えており、実現されれば短中期的により多くの民間資本を惹きつけ、投資家にとってはアルファ獲得の機会が増えると考えています。

メキシコの変身術とはなんでしょうか。メキシコはパンデミック後に、インフレ抑制のために政策金利を3倍近い11.25%まで引き上げる必要がありながら、支出規律に重点を置いた現大統領の政策をもとに財政赤字を抑えるなど、多くの課題に直面してきました。しかし、コロナ後に同国は米中対立の激化を背景としたニアショアリングの恩恵もあり、米国に近い国として大きな恩恵を受けました。政府が過去3年で最低賃金を毎年20%引き上げ、同期間の送金額が50%増加したことは、消費者の強い需要をさらに後押ししました。

このことから、メキシコでは慎重で伝統的な金融・財政政策と力強い景気回復が組み合わさり、「ゴルディロックス」のシナリオが描かれました。特に銀行セクターは、その恩恵を大きく受けると考えています。実際に、過去4年間で収益を倍増させ、今後12ヶ月間でさらに50%の増収を目指している一部の地方銀行もあるそうです。さらに、メキシコの銀行業務の浸透率は比較的低く、住宅ローンなど一部ローン商品は固定金利が主流であることから、ここ最近の利上げの影響は銀行のポートフォリオでの不良債権の増加に現れていません。現地の年金基金であるAFORESは2桁ペースでの成長を続けており、運用資産はほぼ3,000億米ドル(GDPの20%)に達し、同年金システムは中南米最大規模となっています。資産の50%以上が現地通貨建て国債に投資されることから、政府の安定した資金基盤となっているほか、国内投資家向け商品は拡充され、多様化されています。さらに、貯蓄率の伸びも資産運用業界を支えており、一部の運用会社の運用資産はここ数年で倍増しました。

財政規律は選挙後も保たれるのでしょうか。金融相は今年は選挙イヤーのため財政赤字がGDP対比で5.7%となることを予想しているものの、来年は3%近い水準まで低下させることをコミットしています。この目標は挑戦的であるものの、政府は選挙運動費用やアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領による幾つかの投資プロジェクトの取り止めが1.5-2%の赤字縮小に寄与するとの試算から、財政赤字の縮小を予想しています。

大統領選挙はテール・イベントとなる傾向があるものの、メキシコの場合、いずれの候補者の勝利も市場にとってはポジティブに働く可能性があると考えています。現在優勢となっている国家再生運動(MORENA)のクラウディア・シェインバウム氏は、AMLOに近い政策を掲げているものの、持続可能性により重点を置き、近隣諸国に対してよりソフトな外交アプローチを示しています。野党候補のソチル・ガルベス氏は、自由化と市場友好的な改革に重きを置く強力なチームを率いていると見られています。

これらの前向きなダイナミクスにも拘わらず、メキシコの債券資産はクレジットの質で示されているよりワイドなスプレッドで引き続き取引されています。同国のファンダメンタルズの前向きな基調はなぜバリュエーションに反映されていないのでしょうか。この一つの理由として、国営石油公社の債務持続可能性が未解決であることが考えられます。2023年末時点でEBITDAは200億であるのに対して、債務額は1,080億米ドル、フリーキャッシュフローはマイナスとなっており、複数回にわたり政府支援が実施されていますが、投資家は当社の債務持続可能性について深い懸念を抱えています。結果的に、資金調達へのアクセスが限られ、当社の資金調達コストはエマージング市場においても最高水準となっています。

この問題には解決策があると考えています。メキシコ国有企業には利益創出とエネルギー保証という二つの機能があります。現在、同社の上流部門は収益性が高い一方で、下流部門は、主に政府の価格政策により採算の取れない事業となっています。現在はキャッシュフローの創出能力が高い上流部門が、全ての債務支払いを負担する形となっています。我々は同社を上流及び下流部門の二つの組織に分割することを提言しています。(収益性に注力する)上流部門が、持続可能な債務の一部を引き受ける形とすれば、プラスのキャッシュフローを生みながら、環境面の目標達成に向けた投資やその分野に注力できると考えています。実現すれば、ソブリン債に対する上乗せスプレッドの水準がはるかにタイトなブラジルやコロンビアの国営エネルギー会社に対してクレジットの質が同等になると考えています。

同時に、エネルギー保証という役割を努める下流部門は、残りの政府保証が必要な債務を引き受けることができると考えています。格付け機関はすでに政府保証の必要性を織り込んでいるため、政府のクレジットの質が悪化することはないでしょう。これは準ソブリン企業の債務の全額保証を求めることとは異なるため、政府がこの解決策について議会承認を得ることはより容易と考えています。取引先との多額の滞納、マイナスのキャッシュフロー、限られた資金調達環境を踏まえると、現状維持という選択肢は考えられません。また、これが実現すれば、同社の債務コストは3-4%縮小する可能性があり、銀行のバランスシートを軽くし、利益を生み出すE&P(探鉱・開発・生産)部門への支援が手厚くなるということも期待できます。

今回の出張で、我々の提案に対して政府当局や企業関係者から前向きなフィードバックがあったことはとても良かったと思います。実際、クラウディア・シェインバウム氏はブルームバーグのインタビューで、ペメックスの資金調達の解決策としてこの計画に言及していました。

メキシコの新政権はこの新体制を実現できるのでしょうか。迅速な措置がとられることが重要であり、今が行動を起こす時だと見ています。当然、メキシコには安全保障上の課題やメキシコ通貨の継続的な上昇がある段階で成長の弊害となること、恐らく最も重要なのは、米国の大統領選挙でトランプ氏が勝利することで貿易協定の再交渉が行われる可能性があることなど、他にも注視すべき問題があります。しかし、債務の持続可能性の問題は、上記の他のリスクとは異なり、政府がコントロールでき、迅速に対処できる問題であると考えています。

メキシコ国営企業の役員室には、メキシコで最も高い二つの山であるポポカテペトルとイスタシワトルの伝説を題材にした美しい絵画が飾ってありました。伝説によると、アステカ王国の王女イスタシワトルは、戦士ポポカテペトルが戦いから戻るのを待っていましたが、彼が死んだという偽の知らせを聞き、失意のなかで亡くなってしまいました。戦いから戻った戦士は、彼女の遺体を山に運び、冷たい雪が彼女を目覚めさせることを願いました。神々は戦士の悲しみを感じ、二人がいつも一緒にいられるようにと、二人を山に変えたという伝説です。

ペメックス役員室に飾ってあったメキシコの伝説を題材にした絵画

メキシコとペメックスは持続可能な解決策を見つけ出す共通の目標から、密接に関連し合っています。重要なのは、長く待ちすぎたり、「なんとかやり過ごす」といったシナリオに満足しないことです。メキシコ経済が新しく、より明るい方向に進むように道筋を描くチャンスは多く残されており、政策当局者はキャンバスを彩るようにメキシコ国民と市場を魅了する手段を多く持っていると考えています。

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