ポリーナの視点:中国の回復と特徴

Sep 13, 2024

危機を経験したことがありますか。私たちの多くは、プライベートもしくは仕事の面で、危機を経験したことがあるでしょう。1998年8月、私は母の頼みで、ロシアに帰る前にニューヨークのスーパーマーケットで歯磨き粉とトイレットペーパーをまとめ買いをしていました。ロシアが債務不履行に陥った後のことでした。

危機の経験は時に恐ろしいものですが、それは長続きしないという希望や政策立案者が迅速な回復に向けた解決策を見つけてくれるだろうという楽観的な見方を伴うこともあります。民間の起業家も大きな役割を果たすことがあり、危機後の機会を活用することがよく見られます。リターンの観点からみると、これらの機会は投資家にとって最善の内部収益率をもたらす傾向があります。

しかし、中国では、危機には異なる特徴があるように思われます。私は今夏、中国を数日間訪問し、いくつかの地方政府や中央政府の高官、企業の経営陣、民間の起業家とミーティングをし、回復への道筋への感触を探りました。

今回の訪問以降、比較的割高なバリュエーションから、中国の外貨建て債は社債およびソブリン債とも引き続き慎重な見通しを持っています。現地通貨建て債については中立的な見方をしています。他国とは異なり、危機後の中国は投資家に魅力的なリターンを生み出す機会を提供していないと感じています。理由は以下のとおりです。

中国の中央政府は、汚職や過剰レバレッジに対処するためにいくつかの措置を課すことによって、不動産セクターの危機を、ある種自己創出してきたといえるでしょう。汚職防止キャンペーンと並ぶ「3つの防衛線(レッドライン)」の導入は、経済の過熱を統制された範囲内で管理することを目的としていました。

私の考えでは、危機管理と中国の回復の道筋は、他の市場経済のそれとは異なっています。GDP成長率や輸出指標など、一部のマクロデータを見ると、着実な回復を示します。また、政府が優先している他の経済セクターにおいても、ポジティブなトレンドが見られます。

しかし、これらの数字は、地方のセンチメントや消費者需要の低迷とは対照的です。積極的な危機管理のコストは何でしょうか。景気後退と同様に、景気回復を促すにおいても、同じような効率性を見せることが出来るでしょうか。

中国政府は、景気回復のための明確な計画を提示しました。政策当局者からの公式見解は明白です。不動産セクターの悪化はGDP成長率の3.7%の落ち込みをもたらしましたが、ハイテク、グリーン、デジタルの各セクターの上昇が今年のGDP成長率に5.7%の寄与をもたらしたことで、このマイナスは埋め合わされたというものです1。これには、太陽光パネルやリチウム電池製造といった特定のセクターが含まれており、その輸出は前年同期比で20%以上増加しています2。しかし、この解釈は実際のセンチメントを反映したものではないようです。

第一に、これは、特定のセクターでは、輸出回復はコスト削減やマージン低下という犠牲のもと成し遂げられているためです。多くの国有企業の従業員は、コストを抑えるために給与を削減されています。さらに、国有企業は、民間企業に比べ、政府が設定した目標を達成するために、より強い収益圧迫に耐えることができます。中国は世界の製品の30%を生産していますが、中国の人口は世界の20%近くです3

したがって、健全な輸出成長を維持することが主要な政策目標です。これは、輸出関税が高くなっているにもかかわらず、EUや米国への中国の輸出量が伸び続けている理由として一部説明がつきます。輸出の伸びは依然として政府の優先事項であることから、急激な通貨切り下げ(中国元のより長期的な準備通貨としての道筋を損ないます)や製品不足につながる対応策を通じて、さらなる関税引き上げに積極的に対応することは考えにくいでしょう。

第二に、景気回復の速度は、民間部門のネガティブなセンチメントによる影響も受けています。外資系企業は、コスト削減やマージン圧力の影響をあまり受けないかもしれませんが、官僚主義からの負担増を実感してきているようです。一部の企業は、過去数年間、規制の違反件数を減らすために政府とのエンゲージメントを続けているにもかかわらず、規制違反の件数が増加していることを懸念する声も聞かれています。

地方の民間企業の中にも、官僚主義の負担増に対する懸念が聞かれます。製造業や不動産業を展開するある起業家は、政策立案者の事業主に対する新しいアプローチについて「やらなければやらないほど、間違いは少なくなる」という表現をしました。したがって、民間企業が、より速い景気回復のための刺激策を提供できていないことに驚きはありません。

第三に、地方政府と中央政府の間の不信感によって、問題を抱えた不動産セクターの土地売却収入の減少を部分的に埋め合わせるために、中央政府が地方政府に対して資金提供をすることに消極的であることにつながっていると見られます。この不信感は、新型コロナウイルス以前に地方政府が受け取った多額の資金の不適切な管理に対する疑念によって生じているもののようです。

その結果、中央政府は、借入金利を引き下げ、ホワイトリストに載っているデベロッパーへの融資制度を強化することによって不動産セクターを刺激する供給主導のインセンティブ、あるいは、頭金を減らし、住宅ローンをより利用しやすくするという需要主導のインセンティブに焦点を当てています。しかし、問題は、これらの措置だけでは、堅調な回復を目指すには不十分だということです。

また、中国での急速な景気回復を操作するには、いくつかの構造的な課題があります。そのうちの1つは、特定のセクターにおける過剰設備と統合を欠いていることです。例えば、電気自動車を生産する大手民間企業10社ではなく、200社以上があり、これが価格競争と収益の減退につながっています。

もう1つの課題は人口動態に関係しますが、高齢化という問題もさることながら、むしろ地方と都市部の学生の違いに焦点が当たっています。スタンフォード大学のScott Rozelle氏が2023年に発表した研究によれば、同程度の教育水準と栄養状態にある地方の学生は、全国規模のテストにおいて、都市で育った学生と比較して低い結果であった、としています。この違いは、地方の子どもたちは成長の初期段階で精神的な刺激を欠いており、それが彼らの認知能力とその後の人生の達成度合いにマイナスに影響しているということのようです。

最後に、世界的な地政学的緊張が続いていることも、中国と西側諸国の間の不信感を生み出しており、これが中国内、中国と貿易相手国の間のセンチメントに負の重石となっています。

より長期的に楽観的な見方を持てる理由は何でしょうか。多くの重要な要因:第一に、良くも悪くも、中国における労働倫理は、私が訪れた新興国市場の中で最も頑強なものです。例えば、政府高官の中には、年に5日の休暇しか取らず、長時間勤務や6週間家に帰らないことに慣れている人もいます。

これとは別に、Yuan Jiajun氏(重慶市共産党委員会書記)やChen Jining氏(上海市共産党委員会書記)のように、市場への理解と経済的ビジョンを持つ数名の政治家がいることもポジティブに捉えていますが、私たちの見解では、移行は少なくとも5年先のことであると思われます。この間、中国の景気回復のペースは現行の緩やかなものにとどまることが予想されます。

そうは言っても、成長率が鈍化しても、中国は依然としてEU全体のGDP成長率に相当するGDPの年間成長を生み出しており、それゆえに、引き続きグローバルな力となっていることを認識することが重要です。

国が危機を乗り越えたとき、経済的困難は避けられませんが、投資家は回復ストーリーから利益を得る方法を見つける傾向があり、その結果、より早く正常化が進むことに一部寄与することがあります。

中国の積極的な危機管理は、特に新型コロナウイルスの初期において模範的でした。また、経済回復に向けた他とは異なる道筋を作り出しましたが、短期的に強いリターンをもたらすことに対して、投資家はあまり前向きに見ていないようです。

とはいえ、中国の特徴のある経済回復は、投資家の忍耐よりも長い期間を要する可能性が高い一方で、中国内外の資産価格の高いボラティリティを引き起こす可能性も同様に低いでしょう。

 

1,2 Ministry of Finance
3 China accounts for 30% of global manufacturing output (scio.gov.cn), China population (worldometers.info)

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