ポリーナの視点:中東 - 泥雨の中の一筋の光

Jul 02, 2024

あなたは泥雨に降られたことがありますか。それは楽しい経験ではないと思います。私は最近、アブダビ空港に降り立ったとき、この自然現象に見舞われました。全てが泥に覆われただけでなく、暴風雨で高速道路の車が止まり、この天候を想定して設計されていない多くの建物や道路が浸水したため、街は数時間麻痺しました。

数ヶ月にわたって海面水温が平均より高い状態が続いたことで、大気中の水分量が増え、豪雨が発生しやすくなったと、この豪雨は地球温暖化によって引き起こされたと考える人もいます。ありがたいことに、気象警報及び自宅勤務への切り替えが即座に発令され、天候も24時間後には正常化しました。

しかし、その後数日間、大洪水の余波以上に私を驚かせたのは、アブダビをはじめとするGCC諸国のここ数年の変化のスピードを目の当たりにしたことでした。実際、洪水や暴風雨がもたらした混乱や被害は、金融や経済の安定を定着させようとGCC諸国で見られる強いモメンタムと混同されるべきではないと考えています。特に、アラブ首長国連邦(UAE)で最も裕福な首長国アブダビは、ドバイに隣接する保守的で裕福な都市から、世界的なビジネスの中心地へと変貌を遂げています。

中東地域に対しては前向きな見通しを持っており、UAEやオマーンなどは最も選好している国となります。中東地域のスプレッドの縮小は進んでいるものの、一部の国のバランスシートでのファンダメンタルズの改善を考慮すると、さらに前向きな格付けの見直しが期待できると考えています。しかし、新規発行は現在のペースを維持すると予想しており、供給額の規模次第では需給面が弱含む可能性があることに留意しています。

さらに、この地域は、投資家のグローバルなリスク資産のポジショニングを形成する上で、今後、さらに大きな役割を果たすと考えています。政治的・社会的自由、制度意思決定における透明性とガバナンス強化、化石燃料への依存度など、各国で対処すべき重要なESG上憂慮すべき項目が数多く存在していることを認識しながらも、E、S、Gの領域内外を問わず、現在進行中の変革や、最終的にこれによりもたらされるポジティブな成果を把握する必要があります。

何が変わったのか、いくつか挙げていきます。同地域は常に潤沢な石油に恵まれ、資産の蓄積ペースは大幅に加速しています。中東湾岸諸国(GCC)のソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の規模は4兆米ドル以上で、世界全体のSWF総資産の40%以上を占めています1。GCCは昨年、グローバルSWF報告書において、「オイル・ファイブ」(最もアクティブな5つの中東ファンド)がSWF活動をけん引したという理由から、「Region of the Year」に選出されました。地域SWFの高度化、国際的な専門知識、制度化のレベルは大幅に高まっており、現在資産配分の決定においては、債券アロケーションの見直し、デュレーションの長期化やプライベート・クレジットへのエクスポージャー、また新興国市場へのエクスポージャー拡大に重点が置かれています。ヘッジファンドは引き続き資産配分における中核的部分を占めています。

否定的な報道にもかかわらず、同地域のSWFはエネルギー転換にも積極的であり、投資額はこれらのファンドが昨年グリーン資産へ投資した261億米ドルのほぼ半分を占めています²。また、出張中に、UAEやサウジアラビアの機関とともに、特にエネルギー分野での移行資産への資金供給ソリューションの提供について意見交換を行いました。

地域のソブリン・プレーヤーが、EM市場のエネルギーセクターにおける転換への投資を促す上で公的なスタンスを強め、この問題に関する否定的な一般の認識に積極的に対処すれば、大きな利益を享受できると考えています。

民間資本の蓄積ペースも驚くべきものです。BCGの推計によると、6000人の超富裕層(カナダのおよそ半分)を対象とする現在の資産プールは、およそ1兆米ドルに達し、2027年までに3倍の3兆5000億米ドルに達する可能性が高いと言われています。これにより同地域は世界の資産運用の主要ハブに変わりました。

アブダビのバランスシートを見ると、対GDP比債務比率が20%、通常の健全な年間財政黒字とGDPの10倍以上の政府保有資産を持ち、おそらく世界で最優良の独立国家であると考えられます。こうした強固なファンダメンタルズに基づいて、UAEは将来への投資に注力しています。

また、グローバルな金融拠点となることに焦点を当てた、ビジネスのしやすさや税制上の利点があること、グローバル貿易・協力の面では、先進国と再び連携するなど、透明性とエンゲージメントにおける変化が目立ちます。これまでのところ、事例的な数字でもこれが見られており、あるデータによれば、アブダビのGDPの50%以上が非石油セクターからのものであることが既に示されています。

ある政府高官は、UAEといくつかの欧州諸国との間の経済的な結びつきは今まで以上に強くなっていると述べました。例えば、イタリアは2年前にはUAEと二国間関係はありませんでしたが、今ではヨーロッパで最も強力なパートナーとなっています。

投資家は同地域の地政学的リスクを懸念してきました。しかし、この地域は、エジプトのような国々に対する数十億ドル規模の支援や、ケニア、パキスタン、その他のフロンティア国に対する支援など、紛争の拡大ではなく経済的関与を通じてこれらのリスクを管理し、世界的な影響力を高めようと考えているようです。

石油輸出国から、シンガポールやスイスなどがライバルとなる国際的な金融・貿易拠点への移行に際しては、顧客へのデュー・デリジェンスを含め、国際的なコンプライアンス基準を確保する必要があります。今年2月、UAEは、金融犯罪対策のアプローチにおける脆弱性に対処するための過去2年間の努力が認められ、金融活動作業部会(FATF)のグレーリストから削除されました。多くのイギリスのヘッジファンドは最近、アブダビにオフィスを開設し、継続的な資金流入を期待して、大きなチームを同地域に移転しています。

この地域のすべての国が同じ進展を遂げているわけではありません。クウェート訪問後、我々は、国会と内閣の間の対立を踏まえ、麻痺状態にある意思決定プロセスや過去5年間に4回にわたり国会の解散を招いた現在の権力分割モデルについて引き続き懸念しています。

一方、バーレーンは、ファンダメンタルズから見て、この地域で最も脆弱な国家のように感じられます。オフ・バランスシートの多額の負債と大幅な財政赤字の中で、対GDP比債務比率が130%を超え(かつ拡大しています)、同国は債務の内訳や、持続可能な債務管理・成長戦略の構築に向けた道筋を報告・提供する上で透明性を欠いています。歴史的に見れば、投資家は、豊かな隣国であるサウジアラビアからの支援を前提に、バーレーン単独で見て脆弱なファンダメンタルズにある程度目をつぶってきました。しかし、サウジアラビアは経済自由化や、国内のレジャーや娯楽産業の成長に焦点を当てた改革を続ける方針であるため、国民がバーレーンに移動する必要性は低くなると考えています。これは、今後の資金支援にさらなる影響を及ぼす可能性があります。

GCCは多くの点で同時に変革を遂げています。また、ハードな原理主義から寛容の文化やよりリベラルな考え方への移行に注力していることを示す例も数多くあります。アブラハムファミリーハウスは、アブダビに昨年完成しました。この新しい複合宗教施設は、シナゴーグ、教会、モスクが互いに隣り合って立っており、これが信念の間に対話と許容を促していることを物語っています。

UAEをはじめとするGCC諸国は太陽の下でのひとときを楽しんでいますが、その継続性が鍵になると考えています。当地域は外部からの課題に非常に上手く対処していると認識していますが、投資家の信頼を構築するためには、一貫性を提供することが不可欠です。UAEやサウジアラビアなどの国は、国際的な投資家から先進国と認識されようとしていますが、「先進国市場」というタグよりも、政策の一貫性に焦点を当てるべきだと考えています。シンガポールは依然としてEM債券指数に含まれていますが、先進国市場の投資家はそのトラックレコードから、同国のソブリンと企業リスクに安心感を持っています。

中東地域が、泥雨から地政学的リスクまで、様々な難題をうまく切り抜け続ける限り、石油輸出国から世界的経済大国への変貌を確固たるものにする可能性があると考えています。

The abrahamic family house in abu-dhabiアブダビのアブラハムファミリーハウス:融和された文化を象徴する建物

1,2 グローバルSWF年次報告2024

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