やばいですよ、キアー(スターマー)さん

Sep 30, 2024

英国政府にとっては厳しい一週間となりました・・・

コメント要約

  • 前週の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げは、FRBがインフレよりも成長を重視することを示唆している可能性があります。労働市場の弱含みに関連した懸念は残るものの、短期的な米経済見通しは比較的健全であると考えています。
  • 日本では、先週金曜日の自民党総裁選挙において、石破茂元幹事長が過去まれに見る僅差で制し、総裁に選出されました。
  • ユーロ圏の低調な9月の購買担当者景気指数(PMI)を踏まえ、欧州中央銀行(ECB)には早ければ来月にも、追加の金融緩和を実施するプレッシャーが掛かるとみています。
  • 今年最後の四半期に突入する中、この3ヶ月のずっと向こうを見通すにあたって、ここしばらくそうであったように投資環境は極めて不透明なままであるように思えます。

前週の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを受けて、先週も米国債のイールドカーブのスティープ化が進み、短期債利回りは低下した一方、長期債利回りは反対の方向へと動きました。FRBがインフレよりも成長を重視するという反応関数を考慮すれば、このような動きは理にかなった進展であると考えており、この先もさらに続く余地があるとみています。

一方で、今週末の重要な米雇用統計の発表を前に、次回11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における市場の期待が、政策金利据え置き、25bpsの利下げ、50bpsの利下げのうち、どの選択肢に傾いていくのかを見極めるために、雇用統計においてどのような閾値を想定すべきかを自問しています。例えば、20万人の雇用者数増加と、失業率の低下が見られれば、FOMCは様子見の姿勢を取るかもしれません。

一方で、失業率が上昇するとともに、雇用者数の増加が5万人弱に留まるようであれば、再び50bps利下げの選択肢が浮上するかもしれません。とは言いながらも、短期的な米経済見通しは比較的健全であるとの見方を維持しており、労働市場の弱含みに関連した市場の懸念は、週次の失業保険申請件数にも見て取れる通り、やや行き過ぎであるとみています。

米大統領選が依然として極めて接戦の様相を呈する中、経済見通しのいくらかの不確実性に、政治的不透明感が拍車を掛ける格好となっています。米ドルが貿易加重平均ベースで2年来の安値を付けている中、為替市場はどちらかと言えばハリス氏勝利に傾いているように見受けられますが、株式市場は引き続きややトランプ氏勝利を期待しているようです。

結果はかなりの僅差となる可能性があり、最終的には現時点で投票先を変更する有権者よりもむしろ、当日の投票率が結果を左右することになると考えています。その点に関して言えば、2016年や2020年にそれぞれ共和党や民主党に投票した有権者の圧倒的大多数が、おそらく今回の選挙でも同様の投票を行うと予想されることからも、米国は政治的に安定した民主主義が確立していると言えるでしょう。これは、多くの有権者が支持する側を選挙ごとに変える傾向が見られる欧州の状況とは大きく異なります。

中東情勢に目を向けると、先週はイスラエルがヒズボラへの攻撃を開始し、ミサイル攻撃を辞さないイスラエルの姿勢に、戦闘激化への緊張が高まっています。専門家や政治家とのミーティングを踏まえれば、イスラエルのネタニヤフ首相は、米国が選挙を控える中で、攻撃を強めることに関してある種自由な選択が出来ると考えているようです。イランは大規模な戦闘への進展を防ぎたいと考えているようで。

一方、バイデン政権は、11月の選挙を前にイスラエル関連の非難が支持率に影響することを危惧し、極めて慎重になると予想されます。さらに、ヒズボラもしくはイラン側からより大規模な反撃があれば、米国が戦闘に引き込まれることが予想され、その場合、ハリス氏よりも、より熱心なイスラエル支持者であるトランプ氏に有利に働く可能性があるでしょう。また、紛争が拡大した場合、原油価格に上振れリスクもあります。ただし全般的に言えば、中東地域における混乱は概ね同地域内で抑制されたものに留まる可能性が高いとみています。

フランスでは、マクロン大統領の支持率が過去最低を更新するなど、政権の苦難が続いています。新たに経済・財務相に就任したアントワヌ・アルマン氏は、この先の予算案策定協議の場から国民連合(RN)を除外すると発表しました。ただし、バルニエ首相が、不信任案可決を避けるためにルペン氏率いるRNからの支援に依存している中で、現政権はすでに退陣までの秒読みが始まっているようにも思えます。このような状況は確かに、英国でレタスよりも短命であったトラス政権を思い起こし、果たしてその記録を更新するのだろうかと見ている人も多いかもしれません。

さらに、フランスでは対GDP財政赤字が5%を超える状態が続いており、EUによる過剰赤字手続き(EDP)開始が勧告されている中、財政緊縮を進めなければEUからの非難が予想されます。しかし、政府が機能不全に陥っている中、この先数カ月でフランスがこれを達成することは困難であるとみられます。

マクロン氏に対する圧力は今後も強まる可能性があるでしょう。その点を踏まえれば、この夏に解散総選挙を発表したマクロン氏の行動は、2016年に歴史的なブレグジットを巡る英国の国民投票実施を宣言したキャメロン氏を彷彿とさせるものであったと言えるでしょう。

現時点では、フランスにおいて建設的な見通しを立てることが難しく、危機が頂点まで高まらない限りは合意が難しい状態とも言えるかもしれません。その意味で、フランス国債のスプレッドに関しては引き続き苦しい状況を予想していますが、この先数か月間で、窮地に追いやられたマクロン氏が辞任することがない限りは、ドイツ国債に対するスプレッドは100bps未満に留まるとみています。

ユーロ圏の9月の購買担当者景気指数(PMI)は、フランス及びドイツの指標が弱含んだことを背景に、やや低調となりました。南欧の経済状況は比較的良好な状況が続いているものの、欧州全体の成長率がこの先数四半期に亘って1%近辺に留まることを示唆するに過ぎないと捉えています。

したがって、直近の会合では10月の追加利下げ期待をやや打ち消したものの、ECBにはさらなる金融緩和を実施するプレッシャーが掛かるとみています。FRBがより大幅な利下げを実施し、ユーロも対ドルで1ユーロ=1.12米ドルを試す展開となっているほか、EUの財政拡大へのさらなる動きが見られない中、ラガルドECB総裁が次回会合でハト派姿勢を強める可能性は高まっているとみています。

その他欧州では、伊大手銀行ウニクレディトによる、経営不振の独コメルツ銀行買収を巡り、ドイツ政府がこれを阻止しようとする動きが目を見張りました。ウニクレディトCEOのOrcel氏が負ける方向に賭けるつもりはないものの、ドイツ政府の公の反応はこれまでのところ前向きなものではありません。多くの観点から、このような国家主義的な対応は残念であり、まさにEUに必要でないものと言えるでしょう。仮にEUが資本市場同盟の方向に向けて進展し、競争力を高めるための統合を推し進めたいのであれば、尚更です。

実際、ドイツ政府の動きは、EUが一致団結し、今日の欧州を覆う構造的な課題や、米国や他のエマージングの大国と比較して競争力を高めるために提唱されたドラギ計画に釘を刺すようなものであったと言えるでしょう。これは残念なことではありますが、一方で、今日欧州各地で見られる政治的な背景、つまりより国家主義的かつポピュリスト方向に向かっている状況を踏まえれば、それほど驚きではないようにも思えます。最終的には何らかの危機こそが、態度の変化を促すきっかけとなるでしょう。

実際、既にEU内に危機が起きていることを指摘するEU高官もいるようです。しかし、現時点ではEU経済は低成長に留まり、この先購買力やグローバル経済における存在感が低下していく見込みであることは事実でしょう。

英国では、与党労働党の党大会において、現政権の経済見通しが明らかになりました。同政権はこれまで、暗く重苦しい同国経済の見通しや、今後発表される予算案が厳しいものになるとの見方を巡って批判を浴びていました。実際に、スターマー首相の支持率は、スナク前首相と同じくらいに低く、ハネムーン期間は遠い昔の記憶となっています。コミュニケーション力不足が、14年間政権から離れていた同党が政権与党となる準備が出来ていなかったとの印象を与えています。

また同時に、一部重鎮議員が、有力支持者から贈答品を受け取っていたとの見苦しい疑惑や、即座に保守党も同罪であったと指摘した行動も、議員としての信頼を損なう要因となっています。英国経済ははるか昔に製造業の大半を失って以降、サービス業がベースとなっていることから、英国の成長はEUと比較するとまだ持ちこたえています。

とは言いながらも、ブレグジットはいまだ足かせとなっているほか、政府の財政も拡張し切り、インフレも他の先進国と比較して根強く残っています。結果として、同国経済を財政や金融緩和によって下支えする余地は、この先それほどないように見受けられます。

中国では、政策緩和によって株式市場のセンチメントが幾らか回復傾向にあります。FRBによるより積極的な緩和が、中国政府に積極姿勢を促した要因であったとも見受けられます。

不動産購入に関するさらなる規制緩和は好感されましたが、中国不動産市場が完全な弱気相場入りしていることは事実であり、これを転換させるには困難が伴うでしょう。習近平氏自身に、経済刺激策を優先したい意向があるようにも見受けられ、短期的にはそのことがムードを押し上げても不思議ではないでしょう。しかし中期的には、中国に対してやや慎重な見方を維持することが賢明とみています。

日本では、先週金曜日の自民党総裁選挙において、石破茂元幹事長が、高市早苗経済安全保障相との決選投票を過去まれに見る僅差で制し、総裁に選出されました。高市氏は金融政策ハト派を自称し、同氏が勝利する見通しが強まっていた過去数日間では日本国債利回りの低下や円安傾向が見られていました。石破氏当選の報道を受け、市場は逆方向へと動き、円相場ではほんの数分間で1米ドル=146.5円から143円へと円高に向かいました。

最終的にはコンセンサスを醸成していくことを好むと思われ、結果として政策に大きな変化はないとみており、選挙後の市場の動きの一部は巻き戻される可能性があるとみています。しかし、石破氏が支持基盤を固めるために、おそらく11月には解散総選挙が発表されるとみており、結果として、日銀による次回利上げは当初予想していた10月よりも後ずれし、先日も述べた通り来年1月になると予想しています。

全体としては、日本経済が順調であるとの見方から、この先数四半期で金融政策のさらなる正常化を予想する見方には確信を持っています。インフレ率は2%超に留まっており、賃金の伸びも根強さを増しています。米国経済がこの先数ヶ月間でより減速することがあれば、日銀の政策正常化を妨げる要因となるかもしれませんが、そのような状況は予想していません。

今のところ、日本国債利回りは他の市場と足並みを揃えて低下基調にありますが、そのような動きは持続しないとみています。また、国債の買い入れ策や過去のイールドカーブ・コントロールによって、日本10年国債利回りに相対的な割高感が残っていることも特筆すべきでしょう。日銀による国債購入額は今後大幅に減額されていくとみており、足元でも2%を超えて推移している30年国債利回りなどの長期国債と比較して、10年国債利回りも正常化に向かう(割高感が解消されていく)とみています。

今後の見通し

今年最後の四半期に突入する中、この3ヶ月のずっと向こうを見通すにあたって、ここしばらくそうであったように投資環境は極めて不透明なままであるように思えます。短期的には、米国経済が底堅さを維持し、リスク資産に関してはハト派寄りのFRBによって支えられるとの見方を持っています。

同様に、米国債のイールドカーブについては、経済指標の上振れによって11月の利下げ期待が後退し、短期金利が上昇することがなければ、確実にスティープ化に向かうとの見方を維持しています。一方で、米国では選挙戦がますます本格化していますが、依然としていかなる結果にも確信を持つことは困難となっています。

トランプ氏勝利はよりインフレ圧力を高め、イールドカーブのスティープ化や米ドルの上昇を促すきっかけになると予想しています。またリスク資産も上昇に向かうかもしれませんが、仮に実際そうなった場合には、リスク資産を大きく削減する好機になると考えています。トランプ政権は、全般的に債券市場にネガティブであるとみているためです。

反対に、ハリス氏勝利の場合には、米ドル安や株式及びクレジット債の軟化が予想されます。一方で、即座に結果が判明しない場合にはやや混乱が予想され、2020年の出来事を思い起こせば、疑いのない明確な勝者が即座に確定する展開を願ってやみません。究極的に言えば、今回の選挙結果がわずかな激戦州における約10万人の有権者によって左右されることに疑いの余地はなく、最後の最後までもつれ込むことになるでしょう。

英国に話を戻せば、スターマー政権にとっては、議会の過半数を確保し、2029年まで解散総選挙を実施しなくてもよい状況であることは安心材料でしょう。とは言いながらも、同氏の不安定な振る舞いは政権自体が政治的手腕に欠ける印象を与えています。先週のスターマー氏の言い間違え(「人質(hostage)の帰還」ではなく「ソーセージ(sausage)の帰還」と言ってしまったこと)がバイデン氏であったらどう報道されていただろう、と想像すると思わず目を覆ってしまいたくなります。

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