危機時に冷静を保つ

Oct 07, 2024

「負けと負け(lose-lose)」というシナリオ

コメント要約

  • 米連邦準備制度理事会(FRB)は、経済指標の大幅な悪化が見られない限り、中立金利までの利下げに時間をかけることが出来るとの見解を示しました。
  • コンセンサスを下回る金融緩和を予想する中、ブルーベイでは、引き続き米国金利のショート・ポジションを選好しています。
  • 中国では、金融及び財政緩和策を通じて経済活動を支えるために財政を緩和して「何でもする」姿勢を示したとの見方が追い風となる中、中国資産の価格動向が市場の注目を集めました。
  • ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)高官からのハト派寄りのトーンを踏まえ、この先の緩和についてペースの加速が市場では織り込まれているものの、当社は25bpsの利下げの可能性の方が高いとみています。
  • 米大統領選が、金融資産にとって現時点では、中東における進展よりも大きなリスク・イベントとなる可能性を秘めています。

先週は、中東での出来事が金融市場にも不安をもたらしました。ただし、原油価格の動きが比較的抑制されていることを踏まえれば、今回の衝突が局所的なものに留まり、グローバル経済の軌道にもたらす影響は、ある程度限定されるとみられます。

結果として、これまでのところ質への逃避の動きは短命に留まっており、リスク資産も当初の下落を取り戻す動きを見せています。そんな中、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、中立金利までの利下げに時間をかけることが出来るとの見解を示したことが、米国債利回りの上昇につながりました。この発言により、経済指標の大幅な悪化が見られない限り、FRBはこの先11月と12月に予定されている年内残り2回の会合において、それぞれ25bpsの利下げを実施する計画であるとの見方が強まりました。

今のところ、大半の経済指標が米経済活動の底堅さを示す内容となっており、これ関連して、米国の経済サプライズ・インデックスは今年7月に付けた直近最低水準から50ポイントもの改善を見せ、4月以来の高水準を付けています。

しかし、FRBが徹底して労働市場の統計を重視している中にあって、市場参加者も米雇用統計の結果に大きな注目を寄せています。9月の同指標において、非農業部門雇用者数の純増加が5万人未満に留まり、失業率が4.4%と直近の最高水準に上昇した場合、FRBが11月により大幅な緩和を検討するきっかけになる可能性があるとみていました。

一方で、雇用者数が20万人以上の伸び、失業率も低下した場合、米労働市場の軟化を示すここ最近の見方に疑問符がつくとみていました(実際には雇用者数は前月比25万4,000人増加、失業率は4.1%に低下)。また雇用統計の発表を前に、金融市場では2025年末までに200bps近い利下げが依然として織り込まれていたため、そのような結果は、この先の利下げ軌道にもより大きな問いをもたらすとみていました。

我々の見方としては、引き続き米国金利のショート・ポジションを選好しています。現時点では米経済指標が底堅さを維持するとの見方に基づけば、短期のフェデラルファンド金利先物には過度な金融緩和が織り込まれているとみてきました。また、米長期国債に関しても、11月の大統領選でどちらの候補者が勝利したとしても、米国の債務水準に関する継続的な懸念を踏まえれば、この先上昇に向かう可能性が高いとみてきました。

より広範に言えば、FRBが利下げを実施していく中でも、市場が既にこれを織り込んでいる幅を踏まえれば、債券利回りの水準に過度に強気になることは困難であると考えています。債券利回りがさらに低下していくためには、米国経済が減速し、金融政策がより緩和的な方向へと動く必要性が生じたときであると考えており、それまでにはまだかなりの距離があるように思えます。

他市場に目を向けると、中国では、先週始まった国慶節の連休を前に発表された大規模な緩和策を受けた、中国資産の価格動向が市場の注目を集めました。上海市場の株価は先週、20%超の上昇を見せました。これまでの弱気なセンチメントを反映して、同株式市場が過度に売られていたこともその背景にあります。CSI指数はこの上昇によって、今年5月以来の水準に回帰し、年初来での下落幅を概ね払拭しました。

短期的には、金融及び財政緩和策を通じて、中国政府が譲れない一線を示し、経済活動を支えるために財政を緩和して「何でもする」姿勢を示したとの見方が追い風となっています。しかし中長期的には、財政政策が消費を押し上げない限り、輸出の押し上げを狙った政策の効果はすぐに剥落する可能性があるとみています。

したがって、短期的にはポジティブなセンチメントが続く可能性はあるものの、中期的には中国に対するやや慎重な見方を維持しています。

ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)高官からのハト派寄りのトーンを踏まえ、年内残り2回の政策会合において50bpsを超える利下げが市場に織り込まれています。FRBが50bpsの利下げを実施したことで、ECBもその流れを汲むのではないかとの観測が広がっています。ユーロ圏ではインフレ面でのリスクが後退し、米国と比較して景気により暗い雲が漂い始めているためです。

ラガルド総裁が、わずか週週間前の直近の会合の場で、10月の利下げの可能性を否定したように見られたことを踏まえれば、25bpsの利下げの可能性の方が高いとみています。ただし、市場では既に預金金利が来年半ばまでに1.5%に低下することが織り込まれている中、現時点で利回りに過度に強気になることは難しいように思えます。

そんな中、フランスでは、バルニエ政権による予算案が発表され、短期的には同政権の崩壊を回避出来る可能性が高まりました。ルペン氏率いる国民連合(RN)が、現時点では不信任案には直ちに賛成しないと見られているためです。予算案で自らいくらかの譲歩を勝ち取った中で、RNはおそらく、財政緊縮はマクロン政権の支持率をこの先さらに低下させるに過ぎないと踏んでいるとみられます。

再度の解散総選挙は、直近選挙を実施した7月から12ヶ月以内には実施することが出来ません。したがって、ルペン氏は、短期的には有権者の目に「分別がある」と映るように政権を支えることが賢明であると考え、来年6月にその足元をすくうことを狙っている可能性があるとみています。このような状況を踏まえ、足元ではフランス国債のショート・ポジションを解消することとしました。

フランス国債の対ドイツ国債スプレッドは55bpsから80bpsに拡大し、ここからスプレッドが縮小に向かうとの前向きな見方に転換することも難しい一方で、一旦はさらなる拡大のきっかけに乏しくなったとみています。

先週ブリュッセルで実施した政策担当者との面談では、欧州経済の低迷を打開するためとして最近発表されたドラギ氏の提案に関して、活発な議論を交わしました。しかし、フランスやドイツなどの明確なリーダーシップに欠ける中、何らかの外的ショックがない限り、他の欧州政府の緩慢な姿勢が、多くを実現するための制約になり兼ねないとの実感が日増しに強まっているようです。その点に関して、EUが「茹でガエル」状態になっているとの議論もあり、気がつくと時すでに遅しとなり、対処が出来ない状態になっている可能性を懸念する声も見られました。

海峡を渡った英国では、労働党政権が財政を出動する余地が限られ、来月発表される予算も比較的緊縮型になることが予想されている中、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)としては景気下支えのためのさらなる利下げを実施したいであろうとみられます。しかし、英国ではインフレ率が高止まりしており、生産性の伸びもほとんど期待できない経済の中で、高止まりする賃金圧力が最終的に価格に転嫁されることは避けられない状態であると考えています。

日本では、新たに首相に就任した石破氏による政権の船出がやや荒れたものとなりました。同氏が総裁選で勝利したことに反応して当初株価は下落し、その後先週後半に、金融政策に即座に変更はないことを示唆するハト派な発言を受けて、株価は反発しました。またそのような発言が、米国債利回りが上昇する中でも、先週日本国債が底堅く推移する要因となりました。

しかし、石破氏の発言はおそらく次回10月の日銀会合のみに対するものであったと捉えており、これまでにも述べた通り、追加の金融引き締めは来年1月に後ずれしたのみで、状況が大きく変化した訳ではないと考えています。一方で先週は、米国金利が反発したことで、円相場が一時1米ドル=146.5円を突破して下落しました。このような動きは、短期的にはさらに続く可能性があり、現在円のポジションは保有していません。しかし、1米ドル=150円まで下落した場合には、日本円のロング・ポジションを構築する好機となる可能性があるとみています。

より広範な為替相場に目を向けると、米ドルは安値圏から反発し、ユーロに対しても上昇しました。一方で、エマージング通貨も比較的堅調に推移しています。とりわけ、VIX指数が再び20を超えるなどグローバルにボラティリティが高まっていることを踏まえれば、尚更です。

中東での地政学リスクが高まる中、先週はイスラエル・シュケルのショート・ポジションを構築しました。イスラエルが各地での戦闘により深く関与するようになり、同国経済のファンダメンタルズが悪化する中でも、通貨シュケルのパフォーマンスは比較的底堅く推移していました。

クレジット債に関しては、引き続きクレジット・リスクをネットでロングとすることが賢明であると考えています。米国経済がリセッション入りするまで減速しない限り、クレジット債のパフォーマンスは堅調さを維持するとみています。また直近のFRBの行動は、目先の米経済のリセッション入りの可能性を低下させたとみており、比較的前向きな経済見通しを踏まえれば、スプレッドはさらに縮小すると予想しています。より困難なマクロ経済環境を想定していた多くの投資家が、クレジット債について保守的なポジションを取っていたと見られるためです。

今後の見通し

今週は米消費者物価指数(CPI)に市場の注目が集まるでしょう。現段階では、米国経済に弱含みの兆しは見られず、このような状態が続けば、ここ数週間のリターンの追い風となってきたトレンドがこの先も続く可能性があるとみて、期待しています。

そんな中、米大統領選が近づいており、金融資産にとって現時点では、中東における進展よりも大きなリスク・イベントとなる可能性を秘めています。大統領選を巡るレースは依然としてかなりの接戦ですが、トランプ氏が、バイデン政権以降と比べれば、自らが政権を担っていた頃の方が世界はより安全であったということを強調していることを踏まえれば、イスラエルの緊張拡大は、実際にはネタニヤフ氏の好む候補者を勢いづけるのみであるとの見方があったとしても不思議ではありません。

中東情勢は対処可能で、拡大を食い止めることができるとの見方を持っていますが、過去の歴史では一連の出来事とその拡大が次の出来事のきっかけとなり、結果として即座に勢いを増して進展していく可能性があることを物語っています。

したがって、現時点での状況を注意深く精査し、事態の進展とともに考えを変化させる備えをしておくことが重要であるとみています。中東地域の軍事強国は、明らかに複数のシナリオを想定して準備して、最適な結果を導き出そうとしているでしょうし、それはゲーム理論の複雑な演習となり得るでしょう。

その意味で、ナッシュ均衡や囚人のジレンマといった理論に詳しい方たちは、これらの「「ゲーム」が自然な結果として「負けと負け(lose-lose)」というシナリオでよく終わることになることをご存じでしょう。おそらくより現実的に言えば、いかなる戦争や紛争であっても、対立する双方とも真の敗者にしかならないことを、軍事の専門家は覚えておくと良いかもしれません。

最終的には、対話によって平和への道が導き出される必要があり、その日がそう遠くないことを願ってやみません。

残念ながら、中東のような地域では、紛争や憎悪の継続がある種平時のようになってしまっているように思えます。そんな中、先週英国では衝撃的な事実として、コロナ禍の最中、当時のボリス・ジョンソン首相が英国で開発されたワクチンを奪取するため、オランダへ武力侵攻の可能性を探っていたことが発覚しました。何という愚か者でしょう。しかし先週の英保守党党大会では、依然として同氏を崇拝し、いつしか彼がカムバックすることを期待する声もあるようでした・・・

本資料はブルーベイ・アセット・マネジメント・インターナショナル・リミテッド(以下、当社)が情報の提供のみを目的として作成したものであり、特定の投資商品の取引や資産運用サービスの提供の勧誘又は推奨を目的とするものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。本資料は信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、当社がその正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、その誤謬についての責任を負うものではありません。本資料に記載された内容は本資料作成時点のものであり、今後予告なく変更される可能性があります。また、過去の実績は将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。なお、当社の書面による事前の許可なく、本資料の全部又は一部を複製、転用、配布することはご遠慮ください。当社との金融商品取引契約の締結にあたっては、下記の投資リスク及びご負担いただく手数料等について契約締結前交付書面等を十分にお読みいただきご確認の上、お客様ご自身でご判断ください。

 

投資リスク
当社との投資一任契約に基づく運用においては、原則、外国籍投資信託を通じて、主に海外の公社債、株式、通貨等の値動きのある資産に投資しますので、基準価額が変動します。従って、契約資産は保証されるものではなく、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は全てお客様に帰属します。主なリスクとして、価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスク、カントリーリスク等があります。また、デリバティブ取引等が用いられる場合、デリバティブ取引等の額が委託保証金等の額を上回る元本超過損が生じることがあります。なお、投資リスクは上記に限定されるものではありません。

 

手数料等 
当社の提供する投資一任業に関してご負担いただく主な手数料や費用等は以下の通りです。手数料・費用等は契約内容や運用状況等により変動しますので、下記料率を上回る、又は下回る場合があります。最終的な料率や計算方法等は、お客様との個別協議により別途定めることになります。

 

Fee table

 

なお、上記には、投資一任契約に係る投資顧問報酬、外国籍投資信託に対する運用報酬が含まれます。この他、管理報酬その他信託事務に関する費用等が投資先外国籍投資信託において発生しますが、契約内容や運用状況等により変動しますので、その料率ならびに上限を表示することができません。