ブーム(好景気)がやって来る

Sep 24, 2024

中東では、先週も地政学的緊張が高まりました。

コメント要約

  • パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)でハト派に転換し、50bpsの利下げを決定しました。
  • FRBは次回11月の会合で、25bps利下げ、50bps利下げの選択肢を同等の可能性で残しているとみられます。
  • イングランド銀行は先週の会合で政策金利を据え置きました。英国経済は緩やかなペースで成長しており、住宅市場や建設活動も回復しているほか、雇用も概ね底堅さを維持しています。
  • 今後の見通しとして、市場の注目は再び経済指標に集まるとみています。パウエル氏はFRBが経済指標次第である点を明確にし、中でも雇用関連の指標が重要であることは明らかでしょう。

米連邦準備制度理事会(FRB)による50bpsの利下げ決定は、パウエルFRB議長によるハト派転換であるとともに、過去1ヶ月間で見られた債券利回りの低下を概ね正当化する内容であったと言えるでしょう。

ただしパウエル氏は、米国経済は健全さを維持していることを強調することに苦心し、見通しへのリスクは概ね均衡しているとの見方を示しました。また、50bpsの利下げが新たなペースではないとも述べ、引き続き市場の予測よりも少ない金融緩和を織り込むドットチャート予測を参照するよう誘導しました。

したがって、今回の結果は僅差で、利下げ幅を25bpsとするか、50bpsとするかで意見が割れていたように見受けられましたが、米国債利回りのさらなる低下にはつながりませんでした。

今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容を評価するにあたり、今のFRBは、インフレが過度に高まらない限り、可能な限り速く成長ペースを押し上げたくて仕方がないように見受けられ、やや驚いています。今四半期のGDPは3%近いペースで成長しており、失業率の上昇は景気減速を示す要因とされているものの、それには明らかに労働供給の増加が影響しているとみられます。仮に我々が短期的なリセッション・リスクは低いとみているのであれば、FRBはそのようなリスクを一切排除したいと決意しているように見受けられます。

一方で、仮に金融環境の緩和によって経済が再加速すれば、ここ最近のインフレ率の低下基調は反転し始める可能性があるでしょう。そのような見方を踏まえれば、FRBは次回11月の会合で、据え置き、25bps利下げ、50bps利下げの全ての選択肢を同等の可能性で残しているとみられ、同会合までの経済指標及び市場動向次第であると言えるでしょう。

さらに、経済成長の最大化を狙った、より積極的なFRBの姿勢は、結果として中期的なインフレ及び中立金利が比較的高止まりすることにつながる可能性があるとみています。

また、米大統領選挙を見据えれば、財政は拡大路線となる可能性の方が高いと言えるでしょう。仮にトランプ氏が大統領選で勝利すれば、関税は強化され、インフレ圧力は高まる可能性もあるでしょう。

したがって、米2年国債から10年国債までの利回りが3.5%近辺にあることを踏まえれば、大幅な景気減速が見られない限りは、これらの利回りがさらに低下する余地は限定的であるとみています。したがって、皮肉にも、短期的にFRBがよりハト派化すれば、結果としてその後の利下げ余地を限定することになる可能性があるでしょう。

さらに、引き続き米国債のイールド・カーブの2年と30年ゾーンについてはスティープ化する余地があるとみており、長期債利回りは高いターム・プレミアムを内包する必要があると考えています。その背景の一部は財政リスクの高まりや、国債発行を増やす必要性によるものです。

また、長期のインフレ予測が不確実である点も、高いターム・プレミアムにつながる要因でしょう。そのような点から、米国債のイールド・カーブについてはスティープ化しやすいとの見方を維持しつつ、足元ではブレークイーブン・インフレ率が幾らか上昇に向かう可能性を踏まえ、インフレ連動債のポジションも追加しました。

株式市場に目を向けると、企業業績にとって最も重要なのは堅調な名目経済成長であると言えるでしょう。過度にインフレを高めることなく、FRBが成長を最大限に高めたい意向を示していることを踏まえれば、FRBが株式投資家の支援者になっているとの見方も可能でしょう。過去の50bps利下げは、株式市場の大幅な下落の後に実施されてきました。今回、株式市場が歴史的高値圏にある中でもFRBが積極的に50bps利下げに動いたことは、経済指標が落ち込まない限り、株式強気派に活力を与えるというサインとも受け取れます。その意味で、経済面での良いニュースは、リスク資産の上昇を促す可能性があると言えるでしょう。

大西洋の反対側に目を向けると、英国では、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)が先週の会合で政策金利を据え置きました。前月のコア消費者物価指数(CPI)は3.6%に上昇し、総合インフレ率は2.2%増と中銀の目標近辺にあるものの、サービス価格のインフレ率が5.6%増と引き続き悩みの種になっています。

今後数ヶ月間では総合CPIも上昇すると予想されており、結果としてBoEがさらなる金融緩和を決定することは困難な状態が続くとみています。英国経済は緩やかなペースで成長しており、住宅市場や建設活動も回復しているほか、雇用も概ね底堅さを維持しています。

したがって、英国経済は高金利にも概ね対処しているように見受けられますが、この先厳しい予算が控えていることを踏まえれば、絶対ベースでの成長見通しにはそれほど期待できない状況が続くと言えるでしょう。

EUの経済見通しについては、引き続きやや低調な評価を維持しています。しかし、先週の欧州各地の訪問では、南欧諸国がいかに北部の国をアウトパフォームしているかを改めて実感することとなりました。スペインでは、成長見通しの引き上げに伴って、2024年の対GDP政府債務比率が引き下げられ、大手格付け機関も引き続きスペインの格付けを前向きな方向で見直す傾向にあります。ポルトガルでは、経済が好景気を迎えており、首都リスボンは文字通り活気に満ちています。

一方で、ドイツやフランス、その他多くの北部欧州の国には、引き続き重苦しい雰囲気が漂っています。多くの南欧諸国での大胆な改革を促した要因が10年ほど前の危機であったことを踏まえれば、北部の国に転換点をもたらすためにはより明確な危機が必要であるとも言えるかも知れません。多くの人にとっての権利意識やエリート層の間での安心感が、より積極的な行動を取るための妨げとなっているようですが、域内における政治的圧力はこの先強まる一方であるとみています。

先週は日本でも日銀が政策決定会合を実施し、大方の予想通り、政策金利は据え置かれました。日本の金融政策の変更は、四半期毎の会合で実施される可能性が高いとみています。しかし、その会合に該当する次回10月の会合までには、次期首相を選出する自民党総裁選が予定されており、その直後に解散総選挙となる可能性もあります。

その意味で、日銀は来年1月まで利上げを待つ可能性もあるとみています。しかし、日本経済は引き続き期待通りに進展しており、タイミング自体はそれほど確実ではないものの、その軌道には引き続き自信を持っています。日本国債利回りは10年ゾーンが低すぎる水準にあるとみており、日銀が買入額を縮小させ、金融政策を引き締めていく中で、同水準は上昇に向かう可能性が高いとの見方を維持しています。

また、中期的に日本円にはさらに上昇余地があるとみています。しかし短期的には、仮に米国経済が我々の見方通りに底堅さを維持し、実際の利下げが足元で織り込まれている利下げ幅よりも小さかった場合には、短期的に1米ドル=145円近辺に再び円安となる可能性もあるとみています。

リスク資産に関して言えば、先週のFRBの行動は社債スプレッドの支援材料となり、株価も上昇したほか、ボラティリティは落ち着きました。スプレッドは縮小した水準にありますが、より慎重な経済見通しを持っていたことから社債を多く保有していなかった投資家が多く存在しているとみています。仮に経済指標が底堅さを維持すれば、そのような投資家が再び市場に回帰することが予想されます。

また、米国の一部の銀行が、自社株買いや配当支払いのためのFRBの承認を得るため、バランスシート縮小を目的として在庫を軽くしようとする動きがあると聞いています。そのようなリスク削減と時を同じくして、今月初めには社債発行額が増加し、スプレッド拡大につながる要因となりました。それらの承認が下りたことで、今後はポジション再構築のために再び社債への買いが入る可能性があるとみています。

さらに今回のFRBの動きは、エマージング市場(EM)の観点から見ても好感されるとみています。高成長は一般的にEM市場に追い風となり、低い米国金利も同様に支援材料となります。引き続き、EM現地通貨建てのイールドカーブには割安感があるとみており、2024年はこれまでのところ、ある種忘れ去られた資産クラスとなっているものの、今後は良好なパフォーマンスが期待できるとみています。またEM社債に関しても、先進国の投資適格及びハイ・イールド資産に足並みを揃え、堅調に推移すると期待しています。

今後の見通し

FOMCが終わり、市場の注目は再び経済指標に集まるとみています。先週の会合で、パウエル氏はFRBが経済指標次第である点を明確にし、中でも雇用関連の指標が重要であることは明らかでしょう。関連する経済指標の発表は比較的月の前半に集中していることから、この先数週間は経済指標関連では比較的静かになりそうです。

とは言いながらも、金融環境の緩和が、投資家のセンチメントや、建設業界など金利敏感セクターの経済活動を刺激する兆しに注目していきます。景気減速の代わりに、むしろミニバブルのようなものを目にする可能性もあり、11月の選挙を見据えたパウエル氏が、短期的に経済を可能な限り活性化させたいと密かに望んでいた可能性すらありそうな気もします。

米国の選挙は目先の重要なリスク・イベントであり、ここ最近では引き続きハリス氏の勢いが増しています。しかし、この先数週間で多くのことが起こりうるほか、民主党候補者はここ最近の選挙において、最後の2ヶ月間で支持を失う傾向にあったことにも留意すべきでしょう。

中東では先週、レバノンでポケットベルやトランシーバーなどの通信端末が爆発する映像が、007やミッション・インポッシブルなどの1シーンをも彷彿とさせました。イスラエルによるものとされる今回の攻撃がヒズボラの指導者を排除するとは想定しづらいものの、諜報活動は、まるで蜂の巣をつつくかのように緊張を高めるのみであるとみられます。

とは言いながらも、今回の動きは、イラン側がさらなる紛争拡大に消極的であるとともに、米国側からも11月の選挙まではイスラエルを抑止するための言動がないであろうとの見方に基づき、紛争を拡大させるためのネタニヤフ氏による戦略の一部であるとみています。実際、中東地域における緊張の高まりはトランプ氏に追い風となる可能性があり、同様にネタニヤフ氏らに好都合となるかもしれません。

またこのような出来事は、私たちがいかにボラタイルな時代に生きているかを改めて物語るものであり、地政学的要因がコモディティ価格やサプライチェーンの混乱にもたらす影響を十分に認識する必要があるでしょう。一方で、ここ最近では雇用主が「仕事専用の通信端末」を従業員に配布するトレンドが見られている中、自分のものとして受け取ったiPhoneが「熱く」はなく、「冷たい」状態であったことにまず一安心すべきなのかもしれません。

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