戦う?それとも逃げる?

Jan 27, 2025

輝くものすべてが金ではありません。

コメント要約

  • トランプ氏が大統領に就任しました。関税が課されるとの話は既に十分耳にしており、貿易関税に関する重要な問題について、市場の変動要因となるような追加的な情報はほとんどありませんでした。
  • カナダとメキシコは、米国が最初に注力すべき地域であったと考えており、間もなく、EUに目が向けられると予想しています。
  • 米国の経済成長はこの先も当面力強さを増すと見られる一方、欧州は低迷が続いています。
  • 英国では、労働市場の需要が減退し、センチメントが悪化していることは、英国経済が現時点で失速していることを示唆しており、2024年10-12月期のGDP統計においても、0%の成長が示される可能性が高いとみています。
  • 日銀は、政策金利を0.50%に引き上げました。日本の金融政策のさらなる正常化は、2025年を通して続くとみています。
  • 2025年は始まったばかりですが、既に息をつく暇もないように感じられ、市場全体のノイズが早々に沈静化することもなさそうです。

先週の初めは、ドナルド・トランプ大統領の就任式が注目の的となりました。米国の第47代大統領は、大統領執務室に到着すると同時に、一瞬たりとも時間を無駄にすることなく、広範囲にわたる大統領令に署名しました。

とは言いながらも、これらの措置の多くは事前に十分に予想されていたもので、中でも貿易関税に関する重要な問題については、不法移住と麻薬取引の懸念を指摘した上で、メキシコ及びカナダからの輸入品に対する25%の関税が次の週末に発動されるとのコメントを除いては、市場の変動要因となるような追加的な情報はほとんどありませんでした。

そのため、過去数日間では米ドルがやや軟化しましたが、関税による経済的混乱の拡大が現時点では回避されたことから、リスク資産は比較的底堅さを維持しています。ただし、この点に関して楽観視することは適切ではないと考えています。関税が課されるとの話は既に十分耳にしており、問題はそれがこの先どのように、そしていつ、発動されるのか、ということだからです。

多くの側面から、新政権には法案によって関税を推し進め、関税による収入を財政赤字の削減に役立てることが出来るようにしたいという狙いがあるようです。しかし、法案を通じた関税には数カ月を要する可能性が高く、トランプ大統領陣営としては、間違いなく可及的速やかに何らかの進展を見せたいと急いでいることでしょう。

加えて、関税法案という手段は、トランプ大統領自身が米国の国益に照らして取引を行い、二国間の成果を生み出す余地を制限することになります。その意味で、トランプ大統領は既に、特定の国に対する外交政策やエネルギー政策、移民政策における幅広い目標達成のために、関税の脅威を利用していると言えるでしょう。トランプ政権のディール・メイカーが、今後もこのような影響力を維持したいと考えたとしても驚くべきことではないでしょう。

従って、カナダとメキシコに対する(2月1日までに最大25%の関税を賦課するという)トランプ氏の脅しを分析することは、今後数週間の間に貿易政策がどのように展開するかに関して、より広範な影響を理解する上で有益かもしれません。この場合、より低い水準に引き下げることで譲歩して関税が適用される可能性があるほか、その間のカナダとメキシコの行動次第で、適用も3月末まで延期される可能性があるとみています。

ただし、これには短期的に多くの不確実性があり、米国を離れた世界経済への影響という意味では、かなり良いようにも、かなり悪いようにも働きかねない、いかなる結果も想定される状態です。

また、ここ数週間、トランプ大統領陣営がEU加盟国に対する関税に関して、概ね沈黙を維持していることも注目に値します。トランプ大統領が今のユーロ圏経済を見て、同情の念を抱いているのかもしれないと思う方もいるでしょう。しかし、現実には、近いうちにEUが米新政権の射程に入ってこないと結論づけることは時期尚早であるとみています。

カナダとメキシコは、米国の貿易額の最大のシェアを占める2カ国であることから、最初に注力すべき地域であったと考えています。しかし、トランプ大統領の怒りは間もなく大西洋の向こう側に向けられるとみています。

米国が、北大西洋条約機構(NATO)やバーゼル銀行規則から撤退すると脅威をちらつかせ、EUを試すことが予想されます。米国政府はEUに対し、防衛支出の拡大と、米国からのエネルギー及び農産物に対する支出の拡大にコミットするよう、強く要求することでしょう。しかし、これだけでは関税の賦課を回避することは出来ず、この先数カ月間に亘り、EUの政策当局者は極めて重大な課題を突きつけられることになるでしょう。

米国への海外直接投資の増加に伴う投資の加速などにより、米国の経済成長はこの先も当面力強さを増すと見られる一方、欧州は、高すぎるエネルギーコストや景況感の低迷、過剰な課税や過度な規制によって、低迷が続いています。したがって、米連邦準備制度理事会(FRB)が今後数カ月間は政策金利を据え置く一方、欧州中央銀行(ECB)は四半期毎に25bpsの利下げを継続するとみています。

さらに、通貨ユーロは、今後対米ドルでパリティを下回る水準まで下落する可能性があるとの見方を維持しています。金利に関しては、市場の織り込みにそれほど違和感はなく、その点からも、足元では依然としてリスク配分を為替の投資機会に傾けている状態です。

欧州ソブリン債のスプレッドは、フランスの政治的安定に対する短期的な懸念が後退し始めたことから、年初来で堅調に推移しています。しかし、このような静けさは年後半に試練の時を迎える可能性があり、ドイツ国債に対するフランス国債のスプレッドが70bps未満に縮小した場合には、フランス国債のショート・ポジションを再び構築する好機になるとみています。

ただし、足元でイタリア国債のスプレッドが100bpsを試し、スペイン国債のスプレッドが60bpsに縮小していることから、これらのスプレッドのここ最近の動きの一因として、ドイツの信用プロフィールが相対的に弱くなっていることも影響しているとみており、とりわけ2月末のドイツ総選挙に掛けても懸念が広がっています。これに関して言えば、右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が強い支持を得ており、イーロン・マスク氏によるXのプラットフォーム上での「ドイツ・ファースト(ドイツ第一主義)」を掲げたプロモーションは、注視が必要でしょう。

いずれにせよ、ドイツの次期政権は、メルツ氏率いる連立政権となる可能性が高いとみられています。しかし、自由民主党(FDP)は、必要な5%の得票率基準を超えられるかどうかが試されており、大連立がドイツの有権者に大して希望や感動をもたらさないように思われます。

その場合、将来の状況はより不透明となる可能性があり、ドイツや他のEU諸国が、連合ではなく、よりナショナリスト的な方向に進み、単一通貨圏内での将来の政治的統一を危険にさらす可能性があるとみています。

英国では、先週は英国債利回りが米国債の動きに合わせて低下し、レイチェル・リーブス財務相に幾らか安心感をもたらしました。労働市場の需要が減退し、センチメントが悪化していることは、英国経済が現時点で失速していることを示唆しており、2024年10-12月期のGDP統計においても、0%の成長が示される可能性が高いとみています。資金調達コストの上昇を背景に政府借入は増加しており、財政政策がいまや債券利回りの変動に大きく左右されるようになっていることを意味しています。

この先、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)は利下げを実施できるあらゆる機会を活用するとみており、その意味で2月には政策金利を4.5%まで引き下げることが予想されています。しかし、インフレ率は3.5~4.0%程度で高止まりしており、ベイリー総裁がここからさらに大幅な利下げを出来る余地は限定的であるとみています。

一方、ここ最近のFRBの利下げが、長期債利回りの低下ではなく、むしろ上昇につながってきたことは、英国の文脈で見た場合に興味深いと言えるでしょう。仮にBOEが過度にハト派で、インフレの上振れリスクを増大させるのであれば、英国債のイールドカーブは、長期債利回りが上昇するにつれてスティープ化する可能性が高いでしょう。今のところは、英国債でのポジションを保有していませんが、短期的に利回りがさらに低下すれば、弱気な見方を反映させたポジションを検討します。

日本では、日銀が先週金曜日に政策金利を0.50%に引き上げました。日本の金融政策のさらなる正常化は、2025年を通して続くとみています。日本のコアインフレ率は3%を上回っており、今四半期の春闘の賃上げ交渉では5%を上回る賃上げを予想しています。企業の利益率は依然底堅さを維持しており、日本のマクロ環境は概ね建設的であるとみています。

その意味で、日銀は7月に再び0.75%への利上げを実施し、預金金利は来年1月には1.00%に達すると予想しています。日本の10年国債利回りは1.75%に向けて上昇すると見込まれますが、超長期国債は比較的持ち堪えるとみており、ここ最近のトレンド同様、10年/30年ゾーンのイールドカーブがフラット化を続けると予想しています。

一方で、日本経済に再び注目が集まることが、今後数週間での円高加速のきっかけになるのではないかと期待しています。日本円は、ほとんどの評価モデルで依然として過度に過小評価されており、金利差が縮小する中、2025年は円が良好なパフォーマンスとなる要因になるとみています。

このような見方を踏まえ、ユーロや英ポンドに対する円の選好を維持しており、日本での投資機会が大半のグローバル投資家によって見過ごされていると思われることからも、この見方に対する確信度を強めています。

社債市場は先週も堅調な動きを見せました。ボラティリティの低下と株式市場における良好なセンチメントが、引き続きスプレッドを縮小させる要因となっています。しかし、国債に対するスワップの極めて割高なバリュエーションを見ると、このような社債のスプレッド縮小トレンドが早期に反転してもおかしくないように思います。米30年スワップ金利が米国債利回りを80bps程度下回っている中、トランプ政権が、国債の相対的な価格評価の低さは米国の国益にそぐわないと結論付けたとしても、それほど不思議ではありません。

これをきっかけに、スワップ金利と比較した現物債のキャピタル・チャージやレバレッジの取り扱いが有利になるよう微調整がなされる可能性があります。これは、将来的に長期国債利回りを押し下げることにつながり、スワップ金利の上昇を犠牲に、米財務省の借入コストを低下させ、財政赤字に恩恵をもたらす可能性があるということです。確かに、このように明示されれば、なぜ政府はこれをしたくないのか不思議に思うかもしれません。そして、これによって何十億米ドルもの節約を将来しないで済むのです。

ここ数日間ではほとんどポジションに変更を加えておらず、今後数週間でボラティリティが上昇すれば、さらに興味深い投資機会が出現すると考えています。今のところ、金利やクレジットよりも、通貨における投資機会の方が多いとみています。その点でも、今後数日間での関税に関する報道を慎重に注視する方針です。

今後の見通し

2025年は始まったばかりですが、既に息をつく暇もないように感じられ、市場全体のノイズが早々に沈静化することもなさそうです。マクロ環境においては依然として多くの不確実性が存在し、同僚の間でも強気と弱気の両方でばらつきのある予測が見られることも踏まえれば、2025年には、あらゆる見方がある時点では実際に正しい(もしくは正しくない)ことが証明されることになるように思えます。

そのような見方を踏まえて、最も確信を持っているのはボラティリティに関する見方です。ある意味では、年の途中では上下に大きく動いていたとしても、今年末時点の水準が、年初時点の水準と変わらない市場が多くあったとしても不思議ではありません。つまり、取引のタイミングを見極め、適切なエントリー及びエグジット・ポイントを選択することが非常に重要であることを意味し、意思決定に一定の規律が求められることになるでしょう。

従って、年間を通して見ると、アクティブ・ポジションに関して高位のリスク水準を維持したいと考える時期もあれば、現状のように、アクティブ・リスクをはるかに低く抑え、再び市場に戻る適切なタイミングを見つけようと考えている時期もあるでしょう。

一方、巷ではトランプ氏の話題で持ちきりで、同氏自身も活気に満ちあふれた状態である中、過去5日間でトランプ氏のミームコイン「TRUMP」が55%下落していることは特筆すべきでしょう。さらに驚くことに、それでも同コインは、同じBirdeyeのプラットフォームで見つけることの出来る、メラニア夫人公認コイン「MELANIA」の、ピーク時からの80%の値下がりと比べれば、アウトパフォームしているのです。

実際、暗号資産コミュニティはこれらミームコインの出現に混乱し、頭を悩まされているようにも見え、ビットコインの価格も下落しています。もしかしたらこれは、輝くものすべてが金ではないこと、そしてトランプ大統領に関して言えば、必ず最終的にあなたのお金を増やすことになると結論づけるのは危険であるということを思い起こさせてくれる、教訓と言えるかもしれません。とは言え、トランプ氏のミームコインの時価総額はまだ70億米ドル前後あり、トランプ氏自身はおそらく儲かりすぎて笑いが止まらない状態かもしれません...

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