時計じかけのオレンジ

Oct 21, 2024

未来は明るいでしょうか?

コメント要約

  • 金融市場は、米大統領選の話題で持ちきりとなり、依然かなりの接戦であるものの、やや共和党優位に傾いているようにみえます。
  • 米国では、財政赤字削減に取り組む意欲がないと見られる中、負債水準は上昇を続けると見ており、継続的なイールドカーブのスティープ化につながる可能性が高いとみています。
  • 両候補者の政策における主な違いは、輸入品に対する関税を強化するかしないかであり、トランプ氏の考えでは、関税引き上げによって売上が押し上げられるほか、投資や生産を再び米国に呼び込むことが可能になるとされています。
  • 欧州中央銀行(ECB)は先週実施された政策決定会合で、政策金利を引き下げ、さらにハト派寄りに転換しました。
  • 今後も引き続き政治的、そして地政学的なリスクが多く存在することになるでしょう。

先週の金融市場は、投票まで2週間半に迫った米大統領選の話題で持ちきりとなりました。この数週間では世論調査による支持率がややトランプ氏優位に傾いており、賭けサイトでは同氏が再び大統領に返り咲く確率が60%程度となっています。実際に先週ワシントンDCで実施した政策担当者とのミーティングでも、そのような傾向が見て取れました。しかし一方で、トランプ氏優位の見通しは今後もそれほど報道されない状態が続く可能性もあるでしょう。

選挙自体の「公平性」に関して非難の声はありながらも、米共和党陣営はひそかに自信を深めているようです。一方で、米民主党陣営のムードはそれに比べるとかなり低調であるようです。非難や苦情は既に声高にされており、全て「バイデン氏は民主主義を救うべきであったにも拘わらず、自らのエゴによってその機会を失った」との一節に集約されているように見受けられます。

現時点で勢いはトランプ氏にあり、民主党上層部にとって、これを反転させられる手段は明確ではないようです。ここ最近比較的静かであったハリス氏も、直近のイベントを通じて有権者との交流を試みているようですが、その大半が無反応に近い状態で終わっているようです。

一方で、米共和党が下院選で勝利できる可能性は低いと見られ、議会はねじれ状態になると見られます。その場合、これまでに実施された、来年期限切れを迎える減税策は延長される可能性が高そうです。その結果、ワシントンDC界隈では米国の財政赤字が来年も6.5%程度に留まるとの見方が優勢で、つまり来年のGDPを上振れさせたり下振れさせたりすることはないと見られているようです。

財政赤字削減に取り組む意欲がないと見られる中、負債水準は上昇を続けると見ており、継続的なイールドカーブのスティープ化につながる可能性が高いとみています。最終的には、そのような財政に関する言動に変化が見られるまでに、キャッシュ金利と30年債利回りの差が150bps程度まで拡大する可能性があると予想しています。

今のところ、緩和的な財政政策は有権者にも好感されているようです。いずれかの時点で、イールドカーブが現状よりもかなりスティープな状態となれば、住宅ローンの借り手の負担を和らげるために長期金利を押し下げたいという意向が出てくるかもしれません。しかしそれはまだかなり遠い先の話であると言えるでしょう。現時点では、政府財政の継続的な悪化がターム・プレミアムの上昇要因になるとみています。また、逆イールド化した状態が、実質的に政策担当者に対して、減税や財政拡大を容認する青信号になっていると言えるでしょう。

また、トランプ氏が勝利した場合、新政権は輸入品に対する関税を強化する可能性が高いと言えるでしょう。トランプ氏の考えでは、関税引き上げによって売上が押し上げられるほか、投資や生産を再び米国に呼び込むことが可能になるとされているためです。中国からの輸入品に対する関税は即座に引き上げられる可能性が高いでしょう。その他の国に対しては、包括的に10%から20%の引き上げを行う交渉をすると見られますが、欧州からの輸入品に対して多くの関税が適用されることは確実視されているようです。

さらに、トランプ氏は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)再交渉に強硬な姿勢を取ると予想され、ここ最近ではカナダ政府内のムードもトランプ氏の姿勢に寄り添う格好に変化してきているように見受けられ、メキシコにとっては悩みの種となるかもしれません。

関税の強化は、米ドルを押し上げる要因となりそうです。さらに、継続的な成長における米国例外主義も米ドルの追い風となっています。その意味で、トランプ氏が米ドル安を好むと主張していることは興味深いですが、同氏が掲げている政策見通しに基づけば、実際にドル安が達成されるかどうかは不透明です。

加えて、関税引き上げはインフレ圧力にもつながるとみています。したがって、仮に11月5日にトランプ大統領が誕生した場合、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって来年以降利下げを継続することが困難になる可能性があるでしょう。また、インフレ上昇によって、米連邦公開市場委員会(FOMC)がこの先数四半期で再び利上げを強いられることになるというシナリオもあり得るかもしれません。

トランプ氏は、エネルギー価格を引き下げることでインフレ低減を図りたいようです。その意味で、同氏はアラスカでの掘削拡大計画を推し進め、過去4年間で成立されてきた環境関連法案を押し戻し、原油・ガス生産を奨励していくでしょう。エネルギー価格はインフレの大半を占めており、その意味では同氏は成功を収めるかもしれません。しかし、生産における損益分岐点を踏まえると、価格が大きく下落する前に同セクターへの投資は枯渇すると予想されます。

ただしより広範に見てみると、成長という観点からは、選挙結果が米国経済にそれほど大きな影響を及ぼすとは考えていません。米国の経済活動は極めて健全な状態にあり、現時点では景気に大幅な減速の兆しは見られていません。実際に、先週発表された小売売上高でもさらなる力強さが確認されました。

そのような点を踏まえれば、現時点でFRBによる追加緩和の必要性はないように思えます。しかし、9月に50bpsの利下げを実施したことを踏まえれば、その動きが政策ミスであったとの印象を与えたくないことから、11月にFOMCが25bpsの追加利下げを実施しても不思議ではないとみています。その後も、追加緩和が検討されるかもしれませんが、経済活動やインフレが実際に減速軌道にあるとの証拠が見られるかどうかが、今よりもさらに重要となってくる可能性が高いでしょう。

ある意味、トランプ氏勝利は米国よりもむしろ海外の国にとって大きな影響をもたらすかもしれません。それが明確であるのはウクライナですが、より全般的に言えばEU全体にとって、安全保障面での防衛費拡大に向けた進展を強いられるという意味で、多大な影響が及ぶかもしれません。ただしある点では、トランプ氏がEUに必要なショック療法を与えるきっかけとなるかもしれず、結果として、EUがより深刻な危機に立ち向かうために一致団結し、政策転換をもたらすことにつながるかもしれません。

欧州中央銀行(ECB)は先週実施された政策決定会合で、政策金利を3.50%から3.25%に引き下げ、さらにハト派寄りに転換しました。9月のユーロ圏の総合インフレ率は前年同月比1.7%に低下し、北部欧州の経済活動に関連した先行指標もやや低迷していることから、今後数カ月でさらなる追加緩和が必要となる可能性が高まっています。

とは言いながらも、同地域を覆う重苦しい空気は一過性のものではなく、より構造的なものであるように見受けられ、これを払しょくするために金融政策に出来ることには限りがありそうです。実際に、ユーロ圏の失業率は過去25年間で最低水準にあり、経済のスラックが多く残されているかどうかは明確ではなく、生産性の伸びも極めて低い水準に留まっています。

欧州国債利回りはECBによる利下げを概ね織り込んでおり、今回のECBの決定にもほとんど反応を示しませんでした。しかし、ドイツ国債利回りがここ最近の米国債利回りの上昇にさほど追随しておらず、米国債をアウトパフォームしているという点は特筆すべきでしょう。一方為替市場では、ユーロに幾らか圧力が掛かっており、この先、仮にトランプ氏が勝利した場合には特に、ユーロ安基調が続く可能性があるとみています。

英国では、インフレ指標の改善を受けて、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)による緩和期待が高まり、英国債利回りが低下しました。英国にほとんど良いニュースがないように見受けられる中で、コアCPIが3.6%から3.2%に低下したことは明らかに歓迎すべき話題でしょう。

しかし、サービス・インフレが依然として5%近辺で高止まりし、労働党政権による組合への支援も賃金圧力となる中、景気に大幅な減速がない限りは、英国のインフレ率が中銀目標の2%に回帰することは困難であるとの懸念を、依然として抱いています。結果として、BoEがこの先数か月間で緩和できる余地は限定されるとみています。また、利払いコストも高止まりしていることから、今後発表される予算案でリーブ財務相が財政を出動できる余地も限られることになるとみています。

実際、労働党政権は税金や支出計画において、多くの試験的な策を盛り込もうとしているとみられ、政権自身がいまだ具体的に何をしたいのかを模索しているような印象を受け、労働党は政権を獲得するための準備が十分ではなかったようにも映ります。スターマー首相にとっての最初の100日間は極めて厳しい船出となったことは明らかで、支持率も大幅に低下しました。

労働党がその能力を示し、自らの行動を十分に理解しているという点で投資家を納得させ、政権が描く投資計画を英国債市場が支える必要があるという事実に鑑みれば、ここ最近の政権の苦戦はその逆風となっていると言えるでしょう。

その点で言えば、現状では財政面で出来ることにはかなり限りがあるということを日増しに実感することになると見られ、もし予算案が結果として目論見違いとなった場合、労働党内での摩擦が激しくなることも予想されます。

日本では、過去数日間で国債利回りに上昇圧力が見られています。日本の政策担当者との面談を通じて、引き続き政策金利の正常化に対する確信を深めています。現時点では、QE(量的緩和)による国債購入の予定を変更するためのハードルは高いように見受けられ、総選挙が控えていることもあり、今月末の会合における政策変更はないと予想しています。

しかし、インフレ指標が予想を上振れた場合、12月の会合における0.5%への利上げの可能性は高まるとみています。また、先週円相場で一時1米ドル150円まで円安が加速したことにも注目が集まりました。円安は、次回1月の四半期ごとの会合での日銀の政策変更を12月に前倒しする可能性があるとみています。そのような見方を踏まえ、過去数日間で日本円のロング・ポジションを構築しました。ただし、同ポジションは米ドルに対してではなく、ユーロのショート・ポジションに対して構築することを選好しています。先週は社債市場が比較的良好な動きとなりました。米国市場では、より企業フレンドリーな米大統領候補者とされるトランプ氏勝利への期待感から上昇傾向にあります。その点に関して言えば、多くの企業の経営層(C-Suite)におけるトランプ支持はほとんど失われているように見られるものの、彼の復帰をひそかに期待する声は民衆の間では実は多くある印象を受けています。

債券利回りは前週末比ほぼ変わらずとなりましたが、イスラエルがイランの石油関連施設を標的とする可能性が低いとの報道は原油価格の反転につながり、ここ最近上昇基調にあったブレークイーブン・インフレ率もやや低下しました。

過去数週間では、中南米関連のリスクをやや縮小させています。同地域の資産の多くが魅力的な価格水準にありますが、2016年のトランプ氏勝利後の動きを意識しており、他の地域での投資機会を探す方が賢明であると判断しています。

今後の見通し

この先、11月5日に向けたカウントダウンが始まる中、米大統領選への注目がより一層高まっていくとみられます。依然としてかなりの不確実性が存在し、最終的な結果が、投票後数日間に亘って明らかにならない可能性も十分にあるとみています。ペンシルベニア州での開票作業の遅れや、ジョージア州などでの再集計の可能性もあるためです。

米国の民主主義のため、全ての人が明確な勝者と、スムーズな政権移行を望んでいると思われます。同時に、2020年の投票後の光景が思い起こされ、警鐘として今回は繰り返されないことを願う声もあるでしょう。

その点に関して言えば、現政権はより十分な備えを行っていると見られ、結果に疑問を投げ掛けるいかなる試みも、今回は即座に制されることでしょう。とは言いながらも、結果に無効申し立てがあるとすれば、年末に掛けての金融市場が弱含む要因となるかもしれません。

したがって、今後も引き続き政治的、そして地政学的なリスクが多く存在することになるでしょう。ただし、想定されるあらゆるマイナス要因にも拘わらず、リスク資産はいわゆる「不安の壁」を登り続ける可能性があるとみています。企業業績は成長を続け、経済も進展を見せています。

一方で、投資家は比較的慎重なポジションを維持しており、手元資金を有しているため、今後投資に回す資金はあると見られます。その意味で、この先の未来は明るさを維持するかもしれません。もしかしたらそれは、(トランプ氏の肌のような)着色されたオレンジかもしれませんが・・・。

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