より速く、より高く、より強く

Jul 29, 2024

世界中の注目はパリオリンピックに集まるとみられますが、マクロ市場の注目は東京に集まるでしょう

コメント要約

  • 静かな夏休みのスタートになるとの期待感は、ここ最近の資産クラスを問わず見られたボラティリティ上昇によって打ち砕かれることとなりました。
  • 政治的進展もマクロ市場への話題提供に事欠きませんでした。
  • 主要国債のイールドカーブはスティープ化しました。
  • 欧州では、購買担当者景気指数(PMI)が発表され、製造業セクターの低迷とサービスセクターの緩やかな拡大を示しました。
  • 英国では、イングランド銀行は賃金やサービスインフレの根強い高止まりに直面しています。
  • 日本では、より大胆な政策行動への期待が高まっています。

先週の金融市場では、夏場の閑散とした市場とはほど遠く、主要国債のイールドカーブがスティープ化しました。4-6月期の企業決算を背景に株式市場のボラティリティが高まり、広範な資産クラスにおいて既に混み合っていたポジションの巻き戻しが起きたことが、その背景にあります。

VIX指数は今年4月以来初めて一時19を突破し、為替市場でも、日本円及び人民元において顕著な動きが見られました。

債券投資家は、短期資産の相対的な安全性に着目しながら、方向性を左右するファンダメンタルズ要因を探っているようです。

さらに、政治的進展もマクロ市場への話題提供に事欠かず、先週はバイデン米大統領が大統領選からの撤退を表明し、11月の大統領選がトランプ氏対ハリス副大統領になるとの見方が強まり、その過程で米民主党に活力が戻る展開となりました。

バイデン氏がレースから撤退したことで、若くて活気あるハリス氏と対戦することになったトランプ氏が、今後どのように選挙戦を展開するのかは興味深いと言えるでしょう。

ちょうど前週の時点では、それまでの数週間の報道も追い風となり、一部の賭けサイトではトランプ氏が11月に再選する確率が85%まで高まっていました。しかし先週、米民主党が新たな候補者とともにエンジンを再加速し、即座に1億米ドルの寄付金を集めたとの報道などから、同確率は60%まで急低下しました。

とは言いながらも、ハリス氏は今後3ヶ月間で前例のない任務に直面するとみられます。経済政策(そして不利を被っていると感じている国民にどう立ち向かうか)に関する彼女の実績はほぼなく、移民や国境管理などの、最大の課題に対しても信頼性に欠けているのが実情です。両者の政策を聞けば聞くほど、今回の大統領選は予期できない状況が続いています。

米連邦準備制度理事会(FRB)に目を向けると、先物市場では9月の米利下げが完全に織り込まれており、一部コメンテーターの間では、今週予定されている7月の会合での利下げ開始を予想する声すらあるようです。しかし、ここから9月の会合までにあと2回の消費者物価指数(CPI)発表が控えていることも踏まえれば、パウエルFRB議長や米連邦公開市場委員会(FOMC)は早すぎるタイミングでシグナルを発することに慎重になるとみられ、7月利下げ開始の可能性は極めて低いとみています。

その先を見据えると、市場が織り込む2025年末までの利下げ回数は過度であるとみています。米国経済がリセッションを回避し、インフレ率が3%近辺に留まるとの我々の見方に基づけば、尚更です。

先週の大幅な動きを経ても、米国債の2年と30年のスティープ化を狙ったポジションには依然としてリターン獲得の余地があるとみています。また、同ポジションが収益化する過程として、短期債利回りが低下するよりも、長期債利回りが現水準からさらに上昇することに起因する部分が大きいと想定しています。
大まかに言えば、ここ最近の米国債利回りの低下基調が失速する方向に見方が傾いていることになります。

欧州では、購買担当者景気指数(PMI)が発表され、製造業セクターの低迷とサービスセクターの緩やかな拡大を示しました。

引き続き、中期的には政策担当者が必要に応じて団結し、財政拡張への道が開かれることが予想されることを踏まえれば、現状のドイツ国債利回りにそれほどの投資妙味は感じられません。

また全般的に、欧州の債券資産に関しては、現時点でそれほど方向感のある機会を見出しておらず、その他の市場により明確な投資機会を見出しています。
パリでオリンピックが開幕することから、フランス政治も1ヶ月程度の休息を得ると見られ、再び不確実な道筋を再開することになるのは9月以降になるでしょう。

英国では、賃金やサービスインフレの根強い高止まりが示され、やや落胆を誘う内容であったここ最近の経済指標の発表を経て、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)の会合が今週予定されています。総合インフレ率は2.0%を付けていますが、今後数ヶ月で上昇する可能性があるとみられ、今週の会合はBoEにとって利下げを実施出来る数少ないチャンスとなるかもしれません。

そのような点を踏まえ、現時点において仮に利下げをしたとしても、BoEの利下げは一度だけで終わってしまう可能性が高いでしょう。

また市場の注目は、新政権による公的サービスの見直しや、前保守党政権から引き継いだ巨額の財政赤字に集まっていくと予想されます。教員や医療スタッフに大幅な賃上げを提供するとの約束は財政赤字に拍車を掛けます。税収や増えた負債、現状の歳出などに関して、極めて大胆な改革を実施するべき時を迎えているようにも思えます。

労働党にとっての「ハネムーン期間」は、始まるよりも先に既に終わってしまったかのようです。

日本でも、今週は注目すべき日銀の会合が控えており、ここ最近の日本円の動きにも拘わらず、より大胆な政策行動への期待が高まっています。過小評価されているものの、今回の会合で植田総裁が政策金利の0.25%への小幅な引き上げを発表することで、金融政策正常化や量的緩和(QE)脱却の意思を示唆する可能性もあるとみています。

ここ最近発表されたインフレ関連指標はそのような見方を裏付ける内容で、企業向けサービス価格指数は前年比3%を突破し、東京CPIも依然として2%を上回っています。さらに、政治的なノイズも高まっており、中でも先週は、自民党の茂木幹事長が金融政策正常化の方向性を明確にすべきと発言したことが大きく報道されました。

引き続き、日本国債のフェア・バリューは10年国債利回りで見て1.25%程度であるとの見方を維持しています。

また、日本円が既に動き始めている中、日銀による利上げはその転換点の足場固めとなる可能性があります。為替介入のみでは為替相場のトレンドを転換することは出来ないかもしれませんが、政策金利差が縮小するより明確な根拠が見られれば、円の持続的な反発に必要としていたきっかけになり得るでしょう。

先週見られた、調達通貨として人気のある日本円や人民元などのポジションの巻き戻しは、エマージング市場(EM)通貨にも大きな影響をもたらしました。とりわけ、これまで人気のあったキャリー取引の巻き戻しに拍車が掛かる展開となり、中南米通貨が大きく下落しました。

EM通貨に関しては資産クラスとして中立的な見方を維持していますが、多くのEM現地金利については引き続き投資妙味を見出しています。グローバルな経済成長鈍化やインフレの低下は、実質金利が既に高い水準にある、南アフリカやメキシコ、ブラジルなどの現地通貨建て債にとって追い風になるとみています。

社債市場では先週、スプレッドが小幅に拡大し、米国社債がややアンダーパフォームする展開となりました。全般的には、欧州中心に市場は夏場の閑散期に突入しようという中で静かになり始めていますが、フランス選挙後のボラティリティを経て、投資資金が再び市場に回帰しつつあり、保険会社なども買入プログラムを再開しているようです。

そんな中で注目を集めた話題は、英水道会社テムズ・ウォーターが、大手格付け機関Moody’sによってハイ・イールド級に格下げされたとの報道で、S&Pも今後これに続くとみられています。同発行体については取引量が急増し、投資家の見方は、厳しいヘアカット(債務減免)から、新株発行や水道事業規制局(Ofwat)からの規制条件緩和まで、多岐にわたっています。RBCブルーベイでは同社債のポジションは保有していません。

今後の見通し

静かな夏休みのスタートになるとの期待感は、ここ最近の資産クラスを問わず見られたボラティリティ上昇によって打ち砕かれることとなりました。しかし短期的には、9月の重要なFRBと欧州中央銀行(ECB)の会合や11月の大統領選など、より根本的な要因が訪れるまでは、ボラティリティが落ち着くことを予想しています。

再び活気づいた米大統領選は、年後半のマクロ動向をより興味深いものとしました。「トランプ・トレード」の一部は巻き戻される展開となっていますが、大統領選までにはまだ3ヶ月あり、それまでにさらなる紆余曲折も予想されます。

金利に関して言えば、仮に目先利回りの低下基調が続けば、金利デュレーションのショート・ポジション構築も検討する方針ですが、新たな取引に際してはより魅力的なエントリーポイントが訪れるとの期待から、現時点では辛抱強さを維持しています。

差し当たって、世界中の注目は(今回は政治的混乱ではなくオリンピックのために)パリに集まるとみられますが、マクロ市場の注目は東京に集まるでしょう。植田総裁、岸田総裁、そして円の出番です。折しも開幕するオリンピックのモットーが「より速く、より高く、より強く(Citius, Altius, Fortius)」であることも、何らかの示唆を与えているかも知れません。

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