トランプ氏の黄金のアイデアは輝きを失い始めている?

Mar 03, 2025

「ガザ・ア・ラーゴ(Gaz-a-Lago)」:新しいマール・ア・ラーゴ

コメント要約

  • 米消費者信頼感の悪化を背景にリスク資産は下落しました。
  • 先週は米議会で減税と政府支出の削減が盛り込まれた予算案が通過しました。しかし、連邦予算の赤字見通しは引き続き懸念となっています。
  • EUが米国からの独立を確かなものにするという目的のために、EU全体で巨額の防衛支出増が議論されています。
  • 防衛費の増額は国債の供給増を意味するとともに、幾らか成長が押し上げられることで、欧州中央銀行(ECB)が利下げをする必要性を低下させることになるでしょう。
  • 大まかに言えば、先週の利回り低下は妥当とは判断しづらいとみており、この先利回りがさらに低下すれば、金利デュレーションについてはショート・スタンスに移行することを検討します。

先週の金融市場では、米消費者信頼感の悪化に関連した「ミニ成長懸念」を背景に、米国債利回りが低下しました。株式や暗号資産も下落する投資環境下において、米10年債利回りは昨年12月以降で最も低い水準にあり、先物市場では、米連邦準備制度理事会(FRB)による2025年中2回の利下げが再び織り込まれるに至りました。

ただし、このような成長懸念はやや過剰であるとみています。政府効率化省(DOGE)による改革はその過程で、政府からの補助金に依存してきたプログラムの雇用喪失につながるでしょう。「文化・芸術」や「援助」、「福祉」などの分野では、影響が比較的早期に感じられるかもしれません。しかし、いかなる人員削減であっても、その後6ヶ月間は給与が支払われることなどから、実際の雇用統計に表われるのは早くても7-9月期の終わり頃になるとみています。

また、失業保険申請件数も引き続き概ね健全な雇用市場を示唆しており、今後、米政権が移民を取り締まることから、労働力の伸びが止まり、労働市場の引き締まりにつながり得るでしょう。

また先週、米議会で予算案が通過しました。予想された通り、これには政府支出の削減策の大枠に加え、TCJA、いわゆるトランプ減税(2017年に成立した税制改革法)の延長が盛り込まれていました。数字をより細かく、米議会予算局(CBO)の推定値をベースに用いて見てみると、この結果、2025年と2026年は約6.5%の連邦予算の赤字をもたらすと分析しており、これは2024年と概ね同水準です。

その場合、財政政策は今年の成長にプラスにもマイナスにも働きませんが、現政権下で債務水準は上昇を続けるでしょう。財政赤字による主たるリスクは、経済成長が減速すれば、やって来ます。成長の減速は歳出を増加させる一方で、税収を減らすことになります。さらに、米財務省の調達コストが数年前の1%という水準に戻らない限り、トランプ米大統領とマスク氏が、財政赤字を望み通り3%に縮小させる余地はないとみています。

しかし、満期を迎える低クーポンの債券が、高クーポンの債券や短期国債に置き換わっていることで、米財務省の資金調達コストが依然として上昇している中、米国の債務からの金利負担は低下軌道ではなく、上昇傾向にあります。トランプ大統領の政策がインフレ率を押し下げるよりもむしろ、全般的にインフレ率を押し上げると見られることを踏まえれば、金利が長期に亘って高止まりするという現実は、当面、債務費用が財政収支において重石となることを意味しています。

その文脈で言えば、直近の米国債利回りの低下は勢いを失う可能性があるとみています。しかし当面は、より魅力的な水準で金利のショート・ポジションを構築するために、辛抱強く投資機会を窺うことが賢明であると判断しています。

一方、米国の外交政策における姿勢は、引き続き他の多くの西側諸国から困惑とともに受け止められています。実際、米国が1945年以来初めて、欧州の旧同盟国に反対して、国連の安全保障理事会の決議においてロシア側についたことは特筆すべき動きでした。

米国に対する態度が大幅に変化している中、これが米ドルや米国資産全般に対する需要に影響を与えるかどうかは興味深いでしょう。これまでにも、中央銀行が準備通貨を米ドルから分散させる動きを目にしてきましたが、地政学的な懸念はこのトレンドを加速させる一方かもしれません。

経常収支赤字を抱えている中において、米国にとってはそれを打ち消すために海外資本の誘致が出来るかどうかが鍵となりますが、米国が信用出来ないと判断された場合には、米ドルを保有するインセンティブにはより疑問符が付く可能性があります。

成長における米国例外主義や関税は米ドル高につながる要因ではあるものの、今の価格評価や米国に関する地政学的懸念は、米ドルを反対方向へと導きかねない要因です。したがって、足元では、米ドルに対する強気な見方を低下させ、2024年10-12月期にパフォーマンスに貢献していた米ドルのオーバーウェイトを縮小させています。

先週末に行われたドイツの総選挙は概ね予想通りの結果となり、CDU(キリスト教民主同盟)がSPD(ドイツ社会民主党)と連立を組み、メルツ氏が次期首相に就任するとみられています。右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率で2位につけたものの、得票数が世論調査の予測を下回ったことに対しては幾らか安堵感が見られました。

過去数日間で政治的なサプライズがあったとすれば、それは、EUが米国からの独立を確かなものにするという目的のために、メルツ氏が国防費の大幅な増額に合意するよう、より積極的に推し進めたことです。

メルツ氏は、国家予算の枠を超えて、EUの共同債発行によって防衛支出の一部を賄うことにも前向きなようです。

また同氏は、財政均衡化を定めたドイツの「債務ブレーキ」を修正することによって支出増が可能となるよう憲法改正に合意するため、レームダック状態にある現政府を再招集するという考え方も提示しました。これには議会の3分の2の過半数が必要となりますが、今回の選挙では左派と右派のポピュリスト政党が改正阻止可能な3分の1以上の議席を獲得したことから、新議会では困難となるためです。

議論されている提案内容では、EU全体でこの先3年間で累計5,000億ユーロの防衛支出増が推測され、支出額は域内のGDPの3%近くになります。そのための資金調達は、EU債の発行と、ESM/EIB債の発行、さらに国債発行の間でほぼ等しく分割されるとみられ、国債の発行増はEU財政ルールの適用対象外となる可能性があります。この額が正味1%程度の財政緩和に相当することから、同地域のGDPを押し上げることになるでしょう。

しかし、これらが実際どの程度迅速に実行出来るかどうかについては、疑問が残ります。確かに、ラインメタルのような会社にとっては、生産を民需から軍需目的に切り替えることは比較的容易かもしれません。しかし、その他の分野では工場の設備を一新することには困難が伴うであろうほか、ドイツでの商慣行に詳しい人ならば、その過程において乗り越えるべき官僚主義や事務手続きなどのお役所仕事が数多くあることを理解しているでしょう。

また、追加支出という点で、実際に新たな防衛支出がいくらになるのか、そのうち防衛予算に転じている既存の支出がいくらなのか、という点にも疑問が残ります。これは、特に米国も非常に注目している点でしょう。トランプ氏からすれば、軍隊には多様性や気候変動のアナリストではなく、より多くの兵隊こそが必要ということでしょう。

債券利回りに関して言えば、防衛費の増額は国債の供給増を意味するとともに、幾らか成長が押し上げられることで、欧州中央銀行(ECB)が利下げをする必要性を低下させることになるでしょう。シュナーベルECB理事による、よりタカ派的な姿勢を踏まえれば、ラガルド総裁は年内残り1回もしくは2回の利下げを実施した後、政策金利を据え置く可能性があるとみています。

そのような見方を踏まえれば、今後の米国の関税など、はるかに顕著な経済の下方リスクが出現しない限り、ドイツ国債利回りが大きく低下する余地は限定的であるとみています。EU債の発行が増えるとの見通しに基づき、新たな供給がスプレッドの調整につながるリスクがあるとみて、手持ちのEU債についてはポジションを解消しました。

しかしながら、共同発行自体は、全般的にはより緊密なユーロ統合の方向への一歩とみなすことが出来、この観点からは、ユーロ圏のスプレッドにとって概ね前向きな進展であると考えています。したがって、イタリア国債に対しては幾らか前向きな見方をしています。しかし、ドイツ国債に対するスプレッドが110bps程度にある価格評価では、イタリア国債がとりわけ割安であるとも言いがたく、この先市場のボラティリティがスプレッドの拡大につながる場面があれば、追加のポジション構築を検討する方針です。

英国も防衛費の増額を求められている状態ですが、予算においてその余地を見出すことに苦戦しています。英政権は先週、冷戦終結以来最大となる防衛支出増を掲げましたが、実際の予算においてはこの先2年間で、対GDP比2.3%から2.5%に引き上げるに過ぎません。

さらに、英国は機密情報予算も防衛費に分類しています。また、海外支援の支払い、例えば、チャゴス諸島を巡るモーリシャスに対する悲惨な賠償金(米政権や英国の有権者の意向に反して、スターマー政権は奇妙にも中国の友好国に資金をつぎ込むことにコミットしています)も、「防衛費」に含まれています。これはトランプ米大統領が容易に受け入れられるものではなく、英国軍のこれまでの誤った管理によって、ソフトパワーと「進歩的」なイニシアチブのために、人員と戦闘力が骨抜きになってしまったようにも見受けられます。

防衛予算をみると、いかに英国政府の財政が深刻であるかが浮き彫りとなります。端的に言えば、お金がないです。税金をさらに引き上げると、結局は税収の減少につながりますし、英国政府は公共サービスを優先しなければならないという信念に基づく過剰な支出を抑制することが出来ない、あるいはしたくないように見えます。

一方、英国ではエネルギー価格が4月に6.4%値上げされるなど、インフレ関連の話題は悪化の一途を辿り、成長見通しも依然として低迷しています。スタグフレーション懸念を踏まえ、英国資産及び英ポンドについては弱気にみており、英10年国債利回りが4.40%近辺になれば、ショート・ポジション構築を検討します。

日本の経済指標は、先週一週間も好調さを維持しました。百貨店売上高の伸び率は5.2%と加速し、生産者物価は前年同期比3.1%とやや上昇しました。もっとも、日本国債利回りは、他の市場と同様、低下傾向を辿りました。また、昨年10月末から利回りが直線的に50bps近く上昇したことを踏まえ、日銀高官からは金利上昇を牽制する発言が見られたことも、投資家のセンチメントを支えました。

ただし、日銀の発言は、ここ最近のトレンドの反転を狙ったものではなく、むしろ動きを緩やかにしたいとの考えに基づいているとみています。このような点を踏まえると、日本10年国債利回りは今年後半に1.5%から1.75%のレンジに落ち着くことが予想されます。短期的には、円相場により多くの投資機会を見出しています。ここ数週間に亘り、金利差の縮小を背景に円はアウトパフォームしてきましたが、この先数ヶ月間も、このようなトレンドがさらに続く余地が十分にあると考えています。

今後の見通し

ここ最近高まっている米国の成長に対する警戒感を踏まえ、3月上旬から発表される経済指標に対する市場参加者の目は厳しくなるとみられます。そんな中、3月4日とされているメキシコ及びカナダに対する関税の期限は迫っており、目先のEU首脳会議にも注目していきます。

大まかに言えば、先週の利回り低下は妥当とは判断しづらいとみており、この先利回りがさらに低下すれば、金利デュレーションについてはショート・スタンスに移行することを検討します。その意味では、英国債が最も魅力的なショート・ポジションの対象になるかもしれません。インフレ環境を踏まえれば、イングランド銀行(英中央銀行、BoE)が追加利下げを実施する余地が限られているとみているためです。

また、英国の財政に対する懸念を踏まえれば、英国債利回りが預金金利である4.50%を大きく下回ることは困難であるとみており、その結果、英国債には魅力的なリターンの非対称性が存在する可能性があるとみています。しかし、短期的には不確実性の一部が払拭されることを待ちたいと考えており、引き続き、ツイートやトランプ米大統領によって変動しやすい市場を考慮したポジションを維持する方針です。

ウクライナでは、各種報道を踏まえれば和平合意はほぼ達成可能と見られ、ウクライナ政府は国内の天然資源開発に関して米政権との間で合意に達するとみています。ロシアとウクライナの双方に戦闘を停止させたい意向があることから、突破口が見え始めてくるかもしれません。

しかし、停戦が合意に至ったとしても、脆弱で短命に留まる可能性があることには警戒すべきであると考えています。多くの評論家は、侵略者が領土の拡大を達成できるという先例を作ってしまうことを懸念し、ロシアがその長期的な目標達成のために、再び自国軍に完全な力が備わったと判断したタイミングで、紛争を再開することを危惧するでしょう。そしてロシアのようにGDPの8%もの支出を防衛費に注いでいる国であれば、そのタイミングはそう遠くはないかもしれません。このような見方を踏まえ、足元ではウクライナ資産に対してより慎重な見方をしています。

ストレスを抱えるソブリン債市場においては、レバノンやベネズエラについて前向きにみており、エマージング市場(EM)債券特化型の戦略においては選好しています。当然のことながら、ベネズエラのような国名を今後の投資機会の候補に含めることは、驚くべきことかもしれません。もっとも、(先週公開されて物議を醸しているトランプ米大統領のガザ動画で自身の黄金像を登場させるなど)トランプ氏が内なる「金正恩」を体現し始めたかのようにも見える中、いつかは北朝鮮が投資の候補先となる日が来るのかもしれないとも思えてしまうほどです。

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