繰り返される月初めのブルー

Sep 09, 2024

先週はリサーチ目的で中東を訪れました。

コメント要約

  • 労働市場がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に注視されている中、ISM製造業雇用指数などを見ると、米労働需要の急減速を警戒する理由はほとんどないように見受けられます。
  • 先週はエヌビディアの株価下落を背景に株式市場が大きく揺さぶられる展開となり、株価のさらなる下落は、今後政治家の関心を引くことになるかもしれません。
  • 欧州では政治に再び注目が集まり、既成政党の間では過激派政党に対する警戒感が強まっています。
  • この先も、注目すべきイベントが多く控えていますが、現時点においては、目先の米リセッション入りのリスクが過剰に意識されているとの見方を維持しています。

9月初めも、金融市場では8月初旬を想起させるような価格動向が見られ、債券利回りが低下し、リスク資産にプレッシャーが掛かる展開となりました。経済指標の悪化基調をその要因として挙げる市場参加者も多い中、過度にそのような見方に傾倒することにはややリスクが伴うとみています。

先週発表された米労働市場関連の指標では、米労働省雇用動態調査(JOLTS)において求人件数が減少したことが示されました。ただし、今回発表されたデータには、7月分の統計も含まれていることを留意すべきでしょう。7月は、ハリケーン関連の影響も一部あって、その他の米労働関連指標も弱含んだ傾向があるためです

一方で、同じく先週発表され、よりフォワード・ルッキングな指標と言われるISM製造業雇用指数などを見ると、米労働需要の急減速を警戒する理由はほとんど見当たらないように見受けられ、週次の失業保険申請件数なども比較的健全な内容でした。

しかし、とりわけ労働市場がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に注視されている状況下において、先週金曜日の雇用統計の内容が特に重要な意味を持つことは間違いないでしょう。ただしこれらの指標にダウンサイドのサプライズがない限りは、米短期金利には目先の過度な金融緩和が織り込まれているとの見方を維持しています。また今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)においては、引き続き25bpsの利下げを予想しています。

一方で、先週はエヌビディアの株価下落を背景に株式市場が大きく揺さぶられる展開となりました。エヌビディアに関しては、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いが浮上したことも、高水準にあった株価が下落する要因となりました。株価のさらなる下落は、今後政治家の関心を引くことになるかもしれません。ただし現時点においては、人工知能(AI)バブル膨張のリスクが一旦後退したと見られる中、この先は懸念が強まるよりも、安心感が戻る可能性の方が高いとみています。またその結果、金融安定性という意味でも、市場に概ね好感されるとみています。

欧州では先週、市場の注目が再び政治へと向けられました。ドイツの地方選挙で、右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進し、中道政党が支持を失う一方で、その他の過激派政党も全般的に支持を集めたためです。このようなトレンドが欧州各地で見られている中、既成政党の間では懸念が強まっており、これまで通りの政策は有権者の支持を得られないとの見方も日増しに強まっているように見受けられます。

とりわけドイツは、他の工業での競合国と比較して6倍もの価格をエネルギーに支払っており、経済が苦戦を続けていることも理解出来ます。フォルクスワーゲンが先週、ドイツ国内の工場閉鎖を検討していると報じられたことは、環境アジェンダを追求するが故の政策ミスとして苦く受け止められました。皮肉なことに、ドイツが石炭に依存せざるを得なかった背景には国家的な原子力への抵抗があり、組織的な再考が必要とされているのかもしれません。

実際、先週のドイツ東部の州議会選において興味深かった点として、24歳未満の若い有権者からの得票数を見ると、AfDが緑の党の6倍の票数を獲得した点が挙げられます。これまでは、より若い世代の方が左派に傾倒しやすく、グリーンな環境主義的な考えを持ちやすいと言われてきたためです。

若年層の右派傾倒は、とりわけ若い男性において顕著に見られています。これらのグループは、元々いた住民の生活の質に影響が及ぶ、移民の急増を許容してきた既成政党の政策に対し、最も不満を抱えている層であると言えるでしょう。またそのような人々は、ESG政策という名のもとに国家の利益が損なわれることに対しても不満を抱えていると見られます。さらに、残念なことに、若年層の中でも「白人男性」である方が、移民増加によって機会が減少したことに憤慨しやすいことも事実かもしれません。

今のところは、ドイツ政治の構造上、AfDが権力を握る状況は当面回避され続けるとみられます。しかし、ポピュリスト的なトレンドが落ち着くとすれば、中道政党はその姿勢に調整を加え、主張を改めることが必要であるように思えます。また、現時点において社会の中の若年層が描く将来が混乱し、暗いものである状況とは対照的に、この先中長期的に欧州全体での見通しが楽観的で、チャンスに満ちたものであるとの印象に再構築する必要があるでしょう。

フランスでは、政界の重鎮(かつブレグジットの際にEU側の交渉官であった)ミシェル・バルニエ氏が、数多くの候補者の中からマクロン大統領によって首相に任命されました。この動きはサプライズであり、極右勢力には歓迎されることでしょう。しかし一方で、2027年の大統領選において候補者としてルペン氏の対抗勢力になり得ることを踏まえれば、極右としてはバルニエ氏の成功は望めません。さらに、(保守派とされる)バルニエ氏が、左派連合からの指示を得られるかどうかも定かではありません。したがって、おそらく難航するとみられる予算案交渉を控え、マクロン氏はやり過ぎているように思えます。他の状況に変化がなければ、引き続きフランス国債についてはドイツ国債対比のスプレッドが拡大するリスクがあるとみています。

その他、日本の経済指標は引き続き同国経済が比較的堅調であることを示しました。実質賃金は市場予想を上回り、物価や賃金の上昇がより確立してきたことを示唆する材料が徐々に増えています。そのような点を踏まえれば、植田日銀総裁の先週の発言は、経済指標が概ね期待に沿った内容である限りは、日銀が政策正常化を進めることを裏付けるものであったと捉えています。

先週は、リスク資産に一定のプレッシャーが掛かるとともに、資産間での相関も幾らか高まり、クレジット債のスプレッドも拡大しました。ただし、先週の動きは、流動性に乏しく、ポジション解消がより極端な価格動向をもたらした8月の動きと比較すると、控えめであったと言えるでしょう。

引き続き、経済状況は全般的に落ち着いているとみており、クレジット債の下落はあったとしても比較的短命に留まるとみています。しかし、ボラティリティの上昇がより顕在化すれば、スプレッドのさらなる縮小余地は限定される可能性があるとみています。

今後の見通し

先週金曜日の米雇用統計ののち、今後数週間は、消費者物価指数(CPI)や米連邦公開市場委員会(FOMC)など、注目すべきイベントが多く控えています。あらゆるシナリオに対し、先入観を持たずにオープンな姿勢でいることを心掛けており、都度得られた情報を踏まえて見方を調整していく方針ですが、現時点においては、目先の米リセッション入りのリスクが過剰に意識されているとの見方を維持しています。

さらに先を見据えると、政治的なトレンドが金融市場の景観を形作る可能性があり、政治及び政策関連のテーマの進展を注視していくことが重要になるとみています。その意味で、来四半期に迫った米大統領選挙は鍵となるイベントの1つですが、現時点でその結果を確信とともに予想することは困難な状態です。

先週は中東を訪問して多くのミーティングを行いましたが、他の地域とは対照的な同地域の見通しを興味深く受け止めました。原油による多大な富が追い風となって野心的なリーダーが経済のブームを促進し、その勢いはいまだ衰える兆しを見せていません。

ある意味では、慈善的な独裁政治が、リベラルな民主主義をアウトパフォームしているようにも見受けられ、我々により近い地域でも、民主的な理想を再び活性化するために、先見の明がある政治家たちが現れてくれることを祈るばかりです。中東に関しては、ガザ地区の悲惨な現状を除けば、鮮やかな海のブルーが、ブルーな気分を癒やしてくれることは何とも皮肉なことです。

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